第59話 間諜

 珠は生きていた。


「珠、生き返ったのか?」


「いえ、死んでませんけど。」


「はい?だって、頭に矢が刺さっただろ。銃でも撃たれたし。」


「いえ、寝てたんですけど。眠くって。」


「はい?」



 一方、帰蝶はこっそり個室と言う名の独房を抜け出していた。所詮は信行の力を破れるほどの信行を上回る力を持つ帰蝶に魔法が使えない事はなかった。


―――  話は、吉法師一行が捕らえられた当日までさかのぼる。 ―――


 帰蝶はこっそり魔法で珠を治癒した。銃撃も直ぐに弾を取り除いて治癒した。その後眠り続ける魔法を掛け、黙って独房迄連れて行かれた。

 ここで相手を殲滅するのも良いけど、義信の力がいまいちわからないから安全策を取るべきだ。何より、ここで解決してしまっては面白くないと帰蝶は考えて独房迄大人しく連行された。


 夜中になり、帰蝶はこっそり独房を抜け出した。認識阻害の魔法を自分に掛け普通に出歩き、義信を探す。吉法師の持つ地図があれば簡単に分かるのだろうけど暫くは抜け出したことは秘密にして、後で笑ってやりたいから吉法師には聞けない。それほど広くも無い屋敷だから簡単に見つかるだろう。偉い人は高い所にいるって漫画で言ってたし。帰蝶は高を括り探し回っていた。


 すると、一人の人物が近づいて来た。


 認識を阻害しているにも関わらず普通に近づいて来た。


「お嬢ちゃん、誰?魔法使ってるわね。」


 近づいて来たのは未だ十五歳くらいの少女だった。


「なぜ分かるの?もしかして、転生者?神が殺した十数名のうちの一人?」


「そうよ。転生者よ。私は西暦2200年の日本から転生して来たの。あなた達は?その神が殺しやがった十名ってのは知らないけど。」


「私は2020年の日本からやって来た。あなたは違うのね。私達は神が面白半分で車を運転して誤って轢き殺されたの。それで、その神の世界に転生させてもらったってわけ。」


「なるほどね。あの神は色んな世界から人材を自分の世界へ調達している訳ね。本当にあの神が車の運転を失敗してあなた達十数名を誤って殺したと思うの?それ絶対故意に殺してるわね。過失運転致死罪ではなく故意のある殺人罪よね。」


「となると目的はゲームの駒を別世界から集めているって事?」


「退屈さを払拭する為にゲームの駒を別世界から集めて自分の世界でゲームをしているというよりも、単純に自分の世界をこの世界より進んだ異世界の知識で良くしようとしているんじゃないのかな。私はそう思うわ。あの神には悪意は感じられないわね。」


「そうなんだ。ところでお姉さん何歳?」


「私は15歳よ。お嬢ちゃんは?」


「私は、帰蝶10歳よ。」


「え?帰蝶って?織田信長の奥さん?まだ、結婚してないのかな?」


「もう結婚してるわよ、ダーリンは今地下牢で捕まってるの。」


「え?織田信長がいるの?有名人に会いたいわ。」


「有名人って言っても彼も転生者よ。」


「知ってるわよ。それでも本人よね。別世界だし。彼が織田信長なのは事実ね。」


「それと、武田晴信さんと今川義元さんも捕まってるわ。」


「え?どうしてよ。晴信が捕まってるのは分かってたけど、どうして今川義元まで?」


「織田と今川は同盟を結んだのよ。締結後に一緒に京へ将軍に会いに行ったの。その帰りにここに来て、義元さんに仲介してもらって織田と武田の同盟を結ぼうとしたんだけれど息子の義信が転生者で謀反を起こしてみんなまとめて捕まっちゃったって訳。」


「その情報は入ってるわ。織田と今川が同盟結んで、京で三好を退けた後、織田信長が副将軍に叙任されたって。でも叙位は未だなんでしょ。それより、その義信もその十数人のうちの一人?」


「そう、義信は転生者よ。それと、一緒にいるのが織田信行よ。そいつも転生者。一時期『俺が織田信長だー』って言ってたわよ。二度殺されそうになって、逆に殺したんだけどなぜか生きてるの。何の力か分からないわ。しかも、そいつは魔道具が作れて魔法を使えなくする魔道具も作ってるわよ。それでダーリン達は捕まっている状態なの。」


「それは困ったわね。でもあなたは捕まらなかったの?」


「私にはあいつの能力は効かないみたい。だからこっそり抜け出してきたの。」


「それはあなたの魔力が強いからよ。私は他人の能力が分かるの。あなたの魔力はとんでもなく強いわね。」


「そうみたい。それと、一緒に三好政勝も捕まってるわよ。」


「誰それ?」


「・・・・・、やっぱり知らないわよね。本人も『誰だよそれ、って思った』って言ってたし。ところであなたはなぜここにいるの?」


「私は、武田に不穏な気配があるって情報を得て、それに関する情報を掴みに来たの。転生者がいる可能性も考えてね。そしたら、晴信はいないし、探してたの。地下牢に捕まっているって今初めて知ったわ。」


「なるほどね。あなたは忍者なのね。どこかの国に雇われていて武田の情報を調べに来たのね。分かった。多分、上杉ね。上杉に仕えている忍者ね。」


「違うわよ、でも間諜みたいなものね。まぁ、上杉に仕えているのは正解ね。」


「あなた、なんて呼べばいい?」


「今は男みたいな名前だから前世の名前で呼んで。私はエリカよ。あなたは?」


「亜里紗よ。なぜか神も私を亜里紗って前世の名前で呼ぶのよ。不思議。」


「へー、そうなんだ。不思議ね。」


「ところで、エリカは2200年から来たって言ってたわよね。私知りたい事が有るんだけど。」


「あ、ガミラスは攻めて来てないわよ。」


「なんで分かったの?」


「2200年から来たって言ったらその質問はテンプレね。因みに大和は海底で朽ち果ててるわよ。」


「ちょっと残念。義信は何処にいるか分かる?探してたけど見つからなくて。」


「私もさっき来たばかりだから一緒に探しましょう。」


 こうして上杉の間諜と帰蝶は一緒に行動する事になった。


「エリカ、あなたの今の名前は何?」


「景虎よ、長尾景虎。」

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