第57話 髑髏ヶ崎館

 露の雨が降り続く空の厚い雲が陽を遮り灰色に変えられてしまった世界を吉法師一行は空へと飛び立つ。数十秒後、雲の上へと出た一行に唐突に陽が射し始める。


「雲の上は晴れてるでおじゃるか。」


「ホントですね、凄い。晴れてるわ。」


 雲の上に初めて出た今川義元と嫁の花が驚きの声を上げる。珠と妻木も驚いているようだ。


「そうね。雲の上は常時いつも快晴ね。」


当然、吉法師と帰蝶と三好政勝の転生組は普通の事なので驚きもしない。


 セスナは皐月の強い陽射しをほとんど真上から受けながら京の都から東へと飛行していく。


「スチュワーデスさん、コーラ頂戴。」


「はーい。ただいま。って誰がスチュワーデスよ。それにキャビンアテンダントでしょ。」


「でも、キャビンアテンダントさんとは呼ばないんじゃないか?」吉法師が疑問に思う。


「CAさんかな?でも、コーラはないわよ。でも、飲みたいわ。誰か作って。政勝、機内に冷凍庫と冷蔵庫作って。」帰蝶が答える。


「承知しました、帰蝶様。」政勝は帰蝶には礼儀正しい。


その後、少々の沈黙、いや、静かな時間が訪れたが、義元がそれを破った。


「どれくらいで到着するでおじゃるか。」


「距離が265キロだから時速400キロで40分だな。」GPSを持っている吉法師が答える。


「40分とはどれくらいでおじゃるか。」


「四半刻と少しだな。」


「し、四半刻で京から甲府まで行くでおじゃるか。余の駕籠など比べ物にならないでおじゃるな。」


「義元さん、比べるのが間違いだから。」帰蝶がフォロー?する。


 1時の方向に雲から飛び出ている頂上が見える富士山を見ながら進んで行く。下は雲に覆われ地上は全く見えない。


「ダーリン今どのあたりを飛行してる。」


 帰蝶は吉法師に尋ねる。


「ここは那古野を越えてもう直ぐ土岐上空だな。」


「土岐って言えば明智光秀を思い出すな。」と政勝が感想を漏らす。


「そうだな、明智光秀は織田信長を殺す仲間だからな。早く味方に付けたいな。」


「そうなの?あれは、結局は踊らされていただけでしょ?本人に天下を取る野望があった様には見えないし、単に織田信長を打倒せざるを得ない状況を誰かが作った為に謀反を起こしただけのような気がするわ。その誰かとは、信長本人か、信長が死んだ事で最大限の得をした人間でしょうね。多分あの二人ね。明智光秀は江戸時代になっても天海として生きていたという話もあるし。」


「明智光秀って従兄いとこだろ?会った事あるはずだよな?」


「それが会ったことがないのよね。従兄って話は初めて聞いたけど。それとも、父に仕える年齢になっていないからかもしれないし、まだ産まれてないか。いずれ分かるでしょ。」


「若しかしたら俺たちの仲間かもな。」


「かもね。」


御事おこと達は余の知らない情報に詳しいでおじゃるな。余もかなりの数の間諜を使って情報を集めているでおじゃるが、そんな話は聞いたことが無いでおじゃる。」義元が不思議そうに感想を述べる。


「そのうち分かるわよ。」帰蝶が冷たく言い放つ。


 数十分後、飛行機は躑躅ヶ崎館つつじがさきやかた上空へと到着した。館を見るとかなりの兵が外へ出て来ている。しかし、吉法師は今川義元が顔を見せれば事無きを得るだろうという事が分かっていたので気にせずに館へと降りるよう帰蝶に指示する。

 予想通り、館の兵士がざわつくが気にせず着陸させた。すかさず周りを兵士が取り囲んだ。よく訓練されているようだ。


 吉法師達は、今川義元を先頭に飛行機から外へと出る。

 しかし、義元の顔を知っている兵がいないのか未だ武装を解かず槍と弓を向け臨戦態勢を取っている。


 すると、奥から誰か出て来た。


 周りの兵士がお辞儀しているところを見ると偉い人のようだ。吉法師は武田晴信が出て来たのだという事は分かった。予想よりも背が低い。


「お前ら凝りもせず良く来たな。ここがお前らの墓場だ。」


 出て来たのは、晴信ではなく今朝那古野城と吉法師達を攻撃した嫡男の義信だった。


「また、お前か。来ることが分かっていたのか?どうしてだ?」


「俺には世界地図ワールドマップがあるんだ。誰がどこにいるのかさえ分かるぞ。」


自信満々に自慢する。流石に吉法師が俺も持っていると言う気は無いようだ。


「そうか。よかったな。ところで、晴信殿はどうした?」吉法師は尋ねた。


「親父は地下牢に幽閉した。これからは俺が武田信玄だ。」


「へぇ、あなたは出家したの?」帰蝶が尋ねた。


「出家?」


「坊さんになったの?」


「なんで坊さんになるんだ?」


「信玄と言う名前は出家後の法名よ。あなたは坊さんになったの?え?も、もしかして、知らなかったの?し、知らずに信玄って名乗ってたの?ぷーっ、ふっあっはっはー、し、し、知らずに信玄?出家もせずに?ひーーっ、た、助けてぇ(T_T)お腹が痛いよぉっ。」


「お前ら許さないぞー(゚Д゚)ゴルァ!!。」


 顔を真っ赤にした怒りの自称信玄こと武田義信が怒鳴る。


「お前らの周りに兵士がいるだろ?お前らが反抗すればそいつらがまとめて死ぬぞ。助けてほしければ動くなよ!」


「ねぇ、私達は正義の味方ではないわよ。なぜ、わざわざ自分を犠牲にして武田の兵を助けるの?自分が生き残る為なら武田の兵が何人死んでも私は構わないわよ。反抗するに決まってるじゃない。も、もしかして、着ぐるみ着たヒーロードラマの見過ぎ?見すぎなの?もしかして、着ぐるみ欲しいの?欲しいのなら作ってあげようか。」


「え?つ、作ってくれるの?どうしようかなぁ・・・って、欲しいか!!そんなもの。ヽ(`Д´)ノ 、お、おまえら馬鹿にしてくれるな。もう許さないぞ  (`Д´) ムキー!! 」


「え?『とことん』を『ととこん』って言ったの?噛んだの?ととこん?あ、あなた、わ、私を、笑わせてくれるわー!ひーーっひっひっひー、もう勘弁して、もうお腹が痛いの、お、お腹が痛いのよー、あなた今日三回目よ、もう私の負けで良いから。もう勘弁して。」


「よし、俺の勝ちだ。お前ら神妙にして、ばくに就けや!!!」


「そ、それって、平次の父親のセリフ?言いたかったの?いつか使おうと思って大切に取っておいたの?取っておいたんだ。なんで顔真っ赤になったの?恥ずかしいの?でも使ったの?ひーーっ、も、もう、わ、笑わせないで、お腹がよじれるぅ―。腹筋崩壊するぅ。もう、降参するから、もう、許して!」


「おい、そいつらを捕まえろ。」


「大人しく捕まる訳ないだろ。降参するって言ったのは帰蝶だけだぞ。」吉法師は反論する。


「お前らは弱いだろ。怖いのはその女だけだぞ。ほら、兵士共そいつらを捕まえろ。」


 義信は真っ赤な顔して命じた。その後、捕縛用の雷魔法を吉法師達に使った。

 魔法の攻撃を受けて全員体が痺れて小刻みに痙攣していた。その為兵士たちは簡単に捕縛することが出来た。帰蝶だけは、義信の雷魔法など効かなかったようだが、お腹を抱えて笑い続けていたので簡単に捕まってしまった。こうして全員武田義信に捕らえられ、地下牢へと放り込まれた。


「帰蝶?どうして抵抗しなかったんだ?」


「だって、武田晴信さんに会ってみたいじゃない。歴女のさがってやつ?このままじゃ晴信さんが義信に殺されるかもしれないし。それに、助け出せたら武田と同盟結べそうじゃない?」


「歴女だったのか?」


「言ってみただけよ。義元さん大丈夫?まぁ、安心してて、助けるから。」


「安心してるでおじゃる。何とかしてくれると信じてるでおじゃる。あんな空飛ぶものを作れる吉法師殿と、その鬼嫁殿でおじゃるからな。それと、あの檻にいるのが晴信殿でおじゃるぞ。晴信殿‼晴信殿!余でおじゃるぞ。」


 すると、斜め前方の檻で寝ていた男が目を覚ました。


「おー、これは義元殿。なぜこんな地下牢に閉じ込められたんだ。儂の嫡男の太郎の仕業か?あのガキが。あれは人間じゃない。鬼だ。不思議な力を持ってるぞ。その力にやられて閉じ込められたんだな。」


晴信は胡坐をかき、頭を掻きながら鷹揚に答えた。


「そうでおじゃる、太郎殿に閉じ込められたでおじゃる。だが、安心してたもれ。この尾張の嫡男の吉法師殿の嫁も鬼嫁でおじゃる。」


「誰が、鬼嫁よ!!って、あ痛たたた、お腹がまだ痛いわ。」


「あんたが晴信殿か?俺は尾張の織田信秀の嫡男の吉法師だ。ここへは義元殿を仲介役に同盟を結んでもらおうという意図でやって来たんだ。」


「同盟か。義元殿とも同盟を結んだと聞いているし、副将軍になったとも聞いている。足利幕府を支えるものとして共に手を取り足利幕府を支えて行こうする者同士、同盟を結ぶこともいとわない。しかし、今の状況では同盟を結ぶ国が無い。盗られてしまったのでな。」


「安心するでおじゃる。吉法師殿と鬼嫁殿が何とかしてくれるでおじゃる。余も助けてもらったでおじゃる。」


「そうよ。安心していいわよ。って誰が鬼嫁よ!」


「じゃあ、国を取り戻したら同盟だな。」


「それで良いぞ、吉法師殿。」


 晴信は同盟に同意した。しかし、何もかも国を取り戻さなければ始まらない。しかし、武田義信の力は強大であり簡単には行かないだろうことは予想できる。そう吉法師は考えていた。そして、その予想は当たっていた・・・

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