第52話 副将軍 

 吉法師は頬の痛みで目を覚ました。目の前には見た事のない子供がいた。否正確に言えば見た事が有る。スコープを通してみた。迫撃砲を撃っていたやつだ。自分の体を見ると右足と右手の骨が折れ、折れた骨が突き出ていた。惨憺さんたんたる状況だ。


 目の前の子供が尋ねて来た。


「お前、名前は。高級そうな服を着ているな。お前は銃を撃っていたな。お前も神が殺し給うた十数名のうちの一人だな、名前を教えろ。」


「俺は吉法師だ。」


「吉法師だと?有名人じゃないか。俺なんかな三好政勝だぞ。俺は最初思ったよ『誰だよそれ!!』ってな。なんでお前はそんな有名人で、俺は無名な人なんだよ。普通神が誤って殺したんだからもっと有名どころに転生させてくれてもいいだろ。にも拘らず、三好政勝って誰だよ。初めて聞いたぞ。ふざけるなって思わないか。ところで、お前は銃を作る能力があるのか。俺は簡単な迫撃砲だけだぞ。まぁ威力はあるけどな。なぁ、お前は神が殺し給うた十数名のうちの誰かに会った事はないか?俺は初めて会ったぞ。」


「あー、俺もあった事あるぞ。なぁ、お前俺の部下にならないか。今なら銃をプレゼントするぞ。」


「ふざけるな。お前は手足の骨が折れて飛び出てるぞ。この時代だから多分もう死ぬぞ。残念だったな。それに俺は無傷だぞ。俺の方が強いな。お前が生きていてもお前が俺の部下になる事はあっても俺がお前の部下になる事はないな。」


「なぁ、三好何某なにがし君、早く撤退しろ。撤退しないと必ず後悔するぞ。」


「何が後悔するんだ。俺より強いやつはいないぞ。俺は迫撃砲が作れるだけじゃないぞ。」


「光を屈折することが出来るんだろ。」


「なんで知ってるんだよ。」


 すると、敵兵の一角が爆発した。


 三好軍は爆発させた敵に向かって攻撃し始めた。敵に向かい矢を放ち迫撃砲を放ち始めた。しかし、なぜか矢も迫撃砲の砲弾もすべて半球状の空間に消えていく。消滅しているかのようだ。半球状のバリアが張られている。そのバリアが全ての攻撃を無効化している。その中心は良く見えない。ただそこに誰がいるのかは吉法師は分かっていた。



 時間は少々遡り、相国寺の帰蝶一行は突然の兵の襲来に驚いていた。暫しの呆然とした時間の後、太原雪斎たいげんせっさいが言い放つ。


「早くここを離れ義元様の元へと向かわないといけません。幸い隣です。向かいましょう。」


 その言葉に一行は相国寺の西の門から出ようと思うが三好の軍が御所を囲んでいて簡単には相国寺を出れない。

 護衛の兵三人が兵を攻撃して道を作るがあまりの兵の多さに事態は進展しない。


 突然、屋根の上からフルオートの銃撃が聞こえた。この時代フルオートで銃を撃つのは吉法師くらいだろう。屋根の上にいる様だ。直ぐに応援に向かおうと重力魔法で移動しようと考えた途端、吉法師がいたと思われる屋根の上が爆発した。


 その後数発の爆発が続いた後、爆発の音が南の方へと移動した。帰蝶は南の塀を飛び越え北小路まで移動した。

 帰蝶が西の方角を見ると、室町小路と北小路の交差点ところで兵の前で倒れている吉法師に気付いた。そこまで50メートルほどの距離があるが手と足の骨が飛び出している事に気付いた。


 帰蝶は怒りに我を忘れた。


 吉法師の近くを爆発させた。怒りの強さで周りに張ったバリアが高温になり迫撃砲の砲弾さえ爆発することなく消滅した。


 三好政勝は恐怖した自分の攻撃を全く気にもせずに近づいてくる存在に。中が見えないほどの強力なバリアを張りその高熱で周りを全て溶かして進んで来る化け物の存在に。

 突如強烈な痺れが政勝の体を襲った。一切体が動かなくなった。化け物は近づいて来ていた。近づいただけで三好軍の兵を殺戮しながら。


 近づいたところで解かれたバリアの中から一人の綺麗な少女が現れた。政勝は天使だと思った。その少女は、吉法師に手を当てると吉法師の傷を完全に治療した。この少女には敵わないと政勝は感じていた。


「大丈夫、ダーリン。無様ね。みっともない。それで、この人誰?近代兵器を使っていたという事は神が殺した十数人のうちの一人ね。だとしたら有名な人なんでしょうね。」


「あーそうだ。三好政勝らしいぞ。」


「誰それ?」


「有名じゃないのか?」


「聞いたことないわ。ちょっとあなたダーリンをこんな目に合わせておいて楽しく今後の生活が送れるとは思わないでね。焼き殺してやるわ。」


「いいよ、そこまでしなくても。根は信行程腐ってないみたいだし。三好何某なにがし君、残りの兵を連れて撤退しろ。そうすれば勘弁してやる。」


「なにがし君て言うな!政勝だ。今日の所は撤退する。良かったな吉法師、綺麗な援軍がいて。あの、お名前を教えて頂けないでしょうか。ダーリンと言ってるところを見ると濃姫様でしょうか。」話の途中で突然謙り丁寧になる下心見え見えの何某なにがし君であった。


「どうしたの突然丁寧になって。でもそうよ、帰蝶よ。」


「そうですか、あのぉ、先ほど、吉法師さんから俺の部下になれと言われたのですが、帰蝶様の部下は募集されてないのでしょうか。」


「何、あなた私の部下になりたいの。だったら勿論・・」


「え、勿論俺は強いですよ。」


「勿論笑わせてくれるんでしょうね。」


「はい、思いっきり笑わせますよ。」


 その後、三好軍は撤退を開始した。政勝を残して。

 吉法師達は将軍義晴の元へ戻って行った。


「将軍。撃退したぞ。三日月宗近を下賜してくれ。」


「既に用意してあるぞ。これだ。そこの片膝ついて両手を差し出せ。」


 そして、吉法師は片膝をついて両手を差し出した。


「織田吉法師、良くぞこの室町御所と京の街を守ってくれた。この三日月宗近を証として副将軍の地位を下賜する。」


「それは役に立つな。ありがたく頂戴する。」


「あなたはなんでそんなに態度がデカいの?」


「そちらは?」


「妻だな。帰蝶だ。」


「そうよ、妻よ。私にもなんか頂戴。」


「お前も態度がデカいな。」


「私は良いのよ。」


「だったら俺も良いだろ。」


「その理屈が俺には分からんがな。まぁ、帰蝶殿にもなんかやろう。櫛が良いか。お歯黒が良いか。」


「櫛もそんな変な悪習の権化も要らないわよ。草薙剣は無理だとしても他にヒヒイロカネの剣は無いの?」


「世はあまり剣には詳しくないのでな。部下に探させてみるぞ。また今度来る時迄にはあ探しておこう。それとそちらは帰蝶殿の部下か。」


「そうよ。三好・・・だれだっけ?」


「三好政勝だよ。」


「三好政勝?だれだ?」


 勿論将軍義晴も知らなかった。




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