第49話 桶狭間
そろそろ尾張の春も終わり露が始まる季節に近づいて来たがまだ天候は晴れた日が続いている。そんな季節に、今川義元が大軍を擁し上洛して来る。そんな一報がもたらされた。
問題はただ一つ。今川義元の上洛を邪魔する者と言えばただ一人。そう織田信長だ。織田信長が邪魔する可能性が否めない現状では兵を桶狭間に出して警護する必要があると吉法師は考えている。
「帰蝶、兵はどれくらい出せばいいかな。どれくらいの人数で警護すれば織田信長の奇襲を防げるかな。」
「大丈夫よ、警護なんか出さなくても。でも心配なら100人位警護に付けとけば。」
「そうだな。銃があれば100人でも大丈夫だろうな。これで義元殿の周りを警護しておけば織田信長がいつやって来も大丈夫だ。はははっ、織田信長、残念だったなぁー!」
吉法師は空に向かって大声で叫ぶ。まさかその言葉が吐いた唾の様に自分に掛かって来るとは思いもしない吉法師であった。
「はい、はい。残念、残念。」冷めている帰蝶であった。
今川義元到着予定の当日、警護の為に吉法師は騎馬兵100人に銃を持たせて警護に当たる予定で出発の準備をする。
「帰蝶お前も来るか。」
「は?なんでか弱い女性でしかも子供の私を戦に連れて行くのよ。行ってらっしゃい。」
「子供でも女性でも帰蝶が一番戦闘力があるだろ。織田信長が桶狭間に攻めてきた時の為に帰蝶がいたら安心だからついて来い。」
「絶対織田信長が桶狭間に行かないとは言えないけど、大丈夫だから。行って来て。」
織田信長は吉法師なのだから織田信長が桶狭間には行かないとは言えない帰蝶はお茶を濁すしかなかった。
「途中で熱田神宮によるけど神様にお願い事は無いのか?」
「え?行くの?じゃぁ行くわよ。願い事沢山あるから。」
「よし、じゃあ戦にも行かないとな。」
「行かないわよ。願い後済んだら転移魔法でちょちょいのちょいと帰って来るわよ。」
「えー(´;ω;`)ウゥゥ」
「ちょっと、泣かない、男の子でしょ。」
こうして、兵士100名と吉法師と帰蝶を乗せた馬はまずは熱田神宮へと向かうのであった。
100名を率いているにもかかわらず我儘な帰蝶、もとい、吉法師は隊列を組んで余り速度の出ない騎馬隊を放っておいて勝手に進んで行く。
「ねぇ、ダーリン。馬は乗り心地が悪いわよ。車作って、車。ぢになるわよ。ここにはヒサヤ大黒堂は無いのよ。久屋大通も無いし。」
「えー、今度はマッハの出る飛行物体だろ。それと、ヒサヤ大黒堂と久屋大通は関係が無いんじゃないのか?ヒサヤ大黒堂は大阪本店らしいし。久屋大通の『ぢ』の看板は目立ってたけど。」
一行は三十分ほどで熱田神宮に到着した。
「三十分もかかったわよ。セスナなら駿府まで行けてるわ。さぁ、お祈り行くわよ。」
吉法師と帰蝶はいつもの場所まで行って神に祈った。
「神様神様、応答せよ、応答せよ。」
「久しぶりだな。
「神様
「亜里紗さん、君が腹に風穴が開いた位で死ぬ訳がないな。まぁ、痛かったのも事実だし、鑑定の能力を授けよう、吉法師にな。」
「ありがとうございます。」
「えー、私には?私が痛い思いしたのに。」
「では、彫の深い、高身長で脚が長くてボンキュッボンにしてあげよう。但し、成長とともに変わっていくようにするぞ。」
「えー、今じゃないの?だったら髪をブロンドとまでは言わないけど茶髪にして。髪染めが無いし。目も緑にして。コンタクト無いんだし。後、睫長くして。マスカラないんだし。ウイッグは我慢するから。」
「帰蝶、止めた方が良くないか?和服を着ている外人は似合わないぞ。やっぱり和服には黒髪に平べったい顔だろ。」
「いーやっ!黒髪も平べったい顔も嫌っ!」
「わかった、わかったぞ。何とかするぞ。ウイッグは馬のケツの毛ででも作るんだな。それでは達者でな。」
「ダーリンばっかりずるい。」
「何言ってるんだ。総合的に見て帰蝶の方が能力が多いぞ。」
「そうだよね。有れば有ったで
「さぁ、行くぞ。敵は桶狭間にあり!」
「ダーリン、それ違うから・・・」
「織田信長が桶狭間に来るかも知れないだろ。」
「光秀かよ。」
「それじゃ、私は帰るから。」
そう言うと帰蝶の姿は掻き消えてしまった。転移の魔法を使ったようだ。
一行は熱田神宮を出発して桶狭間村へと向かった。到着すると既に今川義元は田楽狭間で休憩していた。
「久しぶりだな。義元殿。」
「これは、吉法師殿。迎えに来てくれたでおじゃるか。」
「あー、織田信長が狙うかも知れないからな。周りを兵士100名に銃を持たせて警護しているぞ。」
「銃を百丁も、凄いでおじゃるな。」
「あー、信長が来てもこれで蜂の巣にしてやるぞ。休憩が終われば那古野城へ向かう。もう少しだぞ。」
休憩中に織田信長が襲撃する訳もなく、半刻の休憩の後、今川義元と吉法師は那古野城へと向け出発した。
空は快晴で雲一つなく、梅雨前の心地よい風が吹いていた。田楽狭間から那古野城まで凡そ二十キロの距離を駕籠に乗った義元に合わせゆっくりと進んで行く。
そして、夕方日も暮れかかり始めた頃に一行は那古野城へと到着した。
兵士は城外での施設で宿泊し、主要なメンバーだけが城内での宿泊となった。義元が場内で駕籠から降りると帰蝶が待っていた。
「これは義元様、元気だった?」
「これはこれは。鬼嫁様ではないですか。」
「誰が鬼嫁だ。」
「駿府では鬼嫁様の話題で持ちきりでしたぞ。なんでも電撃を浴びれば肩こりや病気が治るとか、ご利益があるとか。」
「肩こりは治るかもね。それと、どうして大群で来たの?行ってくれれば迎えに行ったのに。」
「鬼嫁様が迎えに来てくれるでおじゃるか?」
「そうよ。駿府まで四半刻よ。」
「本当でおじゃるか。」
「そうよ。京迄二十五里位だから四半刻もあれば大丈夫よ。但し、人数は六人にして。」
「往復するのか?大丈夫か?」
「大丈夫よ二往復位。結局四百キロでしょ。」
「守りは大丈夫でおじゃるか。」
「途中で襲われないから、大丈夫。京都御所で襲われない限り大丈夫よ。」
「それって言っちゃ駄目な奴じゃ。フラグが立ったんじゃないのか?」
「鬼の力で行くのでおじゃるか?楽しみでおじゃるな。」
「義元さん。兵は明日駿府に返していいわよ。帰りも送るから。」
「余計な経費が掛からないでおじゃるな。鬼嫁様がいるから兵がいなくても安全でおじゃるしな。それと紹介するでおじゃる。これが世の妻、花、武田信虎殿の娘でおじゃるな。」
「お世話になります。花です。」
「じゃぁ、甲斐と同盟を結ぶ懸け橋になって貰えるよね。私は帰蝶ね。よろしくね、花さん。女同士一緒に京迄行こうか。花さんいくつ?」
「はい。よろしくね。帰蝶ちゃん。私も主人も二十五歳よ。」
「へー、花さん若く見える。逆に義元さんはもっと上かと思った。貫禄があるという事だね。あ、お風呂用意してあるから義元さんと一緒に入って。こっちよついて来て、護衛の人もね。」
「護衛ではなくてうちの軍師と重臣でおじゃる。軍師をやっている僧の
二人とも五十歳手前の精悍な顔つきをした漢と言った印象をしている。
「先日は会わなかったな。じゃあ二人にも銃を渡すから、義元殿を守れよ。使い方は教えてやるぞ。」
「よろしくお願い致す。銃はありがたいな。その長い銃は初めて見るやつですな。」と朝比奈泰能。
「尾張は普通の兵でも銃を持っているでおじゃるか。」
「選ばれて数百名だけだな。調印は明日だから、今日は風呂に入ってから宴会だ。取り敢えず風呂に入ってくれ。義元殿の次は、朝比奈殿と太原殿だな。」
その後、四人が風呂に入り終えた後で宴会が始まり、尾張の夜は更けていくのであった。
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