第34話 駿府旅行 伍

「それは日緋色金ヒヒイロカネだ。ヒヒイロカネを使えば魔力を溜めることが出来る。」


「それは何処にあるんでしょうか。」


「熱田神宮にあるぞ。」


「え?」


天叢雲剣あまのむらくものつるぎだ。別名草薙剣だな。」


「では、それを盗めば。」


「それは駄目だ。見せてもらい何で出来ているか組成が分かれば土魔法で作ることが出来るぞ。」


「でも、見ただけでは何で出来ているか分かりません。」


「ま、頑張れ。ではな。」


 吉法師と帰蝶は小さな神社を後にしてあたりを散策しながらゆっくりと歩いて車へ向かった。あたりの民家の軒先には漏れなく魚やタコなどが干してある。


「どう思う。」


「そうね、頑張れって言ってたね。」


「あー、そうだな。」


「つまり、今ある能力で頑張れば組成を理解することが出来る。若しくは、熱田神宮以外にもヒヒイロカネがあり、それを見つけることが出来るとか。又は、頑張って盗めとか。」


「いや、盗むのは不味いだろ。でも、以前お願いしても見せても貰えなかったよな。熱田神宮って、領主だからと言っても見せてもらえないだろうし、管轄は何処だろうか?将軍家?それともその上か。見せざるを得ない状況を作るか、それとも将軍家にお願いして見せてもらう。駄目なら将軍家にその上にお願いしてもらう。そうか、だから、歴史上信長は将軍家に行き十三代将軍の足利義輝に会いに行ったとか。」


「いや、それはないでしょ。元の世界の歴史では織田信長は魔法なんか持ってなかったし。」


「え?この世界の織田信長は魔法使えるのか?」


「え?何の事かな?あ、そうか、あなたは織田信長って名乗るって言ってたでしょ。本物の織田信長が信長って名乗れない様に。だからあなたが信長って名乗ればこの世界では信長は魔法が使えるという事になるじゃない。」


 ヤバイ、やばいと焦る帰蝶であった。


「あー、なるほどな。だったら十三代将軍の足利義輝に会いに行かないとな。駿府旅行の後だな。」


「楽しみだね京都旅行。八つ橋食べたいな。」


「あれは明治に発売開始されたらしいよ。」


「えー、次の時代にもないのか。」


「だったら作ればいいよ。ところで、義父殿と義龍殿は上手く行きそうだったか。」


「多分無理ね。父が本当の父だと頭では理解していても心の奥底に疑念が残っているみたいね。何時いつ噴き出すか分からないわ。何か父に対する不満がトリガーになるわね。だから、那古野城へ越して繰ればって言ったんだ。考えると言ってたけど、顔は引っ越してこないと言ってた。陰鬱な感情に思考が引っ張られてた。どこかで戦も止む無しと思っているみたいだった。息子に対して息子の感情の暗く深い部分に疑念を植え付けるような事をしてしまった事に罪悪感を感じ、暗い感情を植え付けてしまった自分に対してケリを付けようとしているとしか思えない。自らを争わざるを得ない状況に陥らせているみたいだった。」


「だったら、うちの兵士を護衛に付けるか。精鋭を十人。それと立て籠もれる防御の完璧な屋敷だな。義父殿は那古野城へ来ないのなら、何処に引っ越す?引っ越したら、籠城可能なように建物強化するか。パトリオットでも作るか?矢とか鉄砲の弾を打ち落とす装置とか。」


「そうだね。何とかしないとね。」


 車の側には村人六人衆が待っていた。


「世話になったな。有名になったら部下になれよ。」


「あー、有名になったら部下になってやるぞ。」


「それじゃいくぞ。おい帰蝶車に乗れ。」


 こうして三河の小さな漁村を後にした吉法師一行は駿河に向けて旅立つのであった。

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