第27話 月見風呂

 隣の美濃ではだ山には雪が残りいまだに寒い日が続く中、春の尾張もまた寒い日がぶり返したりするものの大抵は穏やかな日が続く。しかし尾張は、ここ暫くは雨が降る天気が続いていた。


 既に吉法師が地下牢に閉じ込められて十日経つ。地下牢は雨の影響で湿度が上がり、不快で鬱陶うっとうしく、忌まわしい。病気になりそうな空間だ。

 吉法師は何とか首輪の離脱や破壊を試みるも上手くはいっていない。


 一方、信行は毎日帰蝶の元へとやって来る。


「どうだ、帰蝶。俺のことが好きになったか。」


 帰蝶は、信行が毎日毎日マインドコントロールの魔法を掛け自分の事を好きにさせようとしている事に気付いている。そこで、それに乗っかることにした。そして、相手を油断させ魔法を解除させようとしていた。


「はい。やはり、能力のあるおかたほうが頼り甲斐があって好ましいです。私は信長様の妻になりたいです。」


「そうか。そうか。もう直ぐだな。」


 ちっ!まだかよ!と心の中で舌打ちした。まさか心の中までは分からないだろうなと不安がっても顔は動かないので顔には出ない。


 すると、キスしようとしてくる。

 おい、おい、ロリコンかよ。と帰蝶は思うが声は出ない。

 唇が触れようとした時に、本気で嫌がった。声は出なかった。

 しかし、わずかに体が動いた。そのまま後ろに信行と共に倒れた。どうやら信行は動けた事に気付いていない。信行は帰蝶に命令し立たせて部屋を出て行った。


 夜中、帰蝶は魔力を込め信行の魔法が解除できるか試みると動けるようになった。魔法も使える。やった、これで助けられる。早く探そう。魔力を放出しどんどん魔力を広げていき、吉法師の行方を捜す。

 すると地下牢にいる吉法師を見つけた。ついでに兵の所在も確認した。帰蝶は兵に会わない道を辿り地下牢へと向かった。

 地下牢へは魔法を使った事もあってすんなり辿り着いた。しかし牢の前には兵がいる。

 帰蝶は睡眠の魔法を使い兵を眠らせた。牢には鍵がかかっており、鍵が無いか探すと兵が持っている。兵の持つ鍵を奪うと鍵を使い牢の扉を開けた。


「起きて。ほら、起きなさい。」


「ん?あれ?帰蝶。動けた?首輪外して。」


「何とか動けたわよ。これ魔道具?これで魔法が使えないとか言ってたわね、信行。ほら、取れたわよ。」


「よし、魔法が使える。これからどうする。って信行?信長だろ?あの性格絶対頭蓋骨切り取って、それで酒を飲むぞ。歪んでる。」


「あいつは信長じゃないわよ、あれは信行よ。あいつは強力なマインドコントロールの魔法が使えるわよ。その前に殺さないと対処の仕様がないわ。幸いあいつは私が魔法を使える事を知らない。神が殺した十数名のうちの一人だとは知らない。だから、あなたが彼の動きを止めて、出来れば心臓の動きまで。それとも魔法で攻撃するか。銃でも良いけど。攻撃が効かなかった場合に私が魔法で攻撃するわ。問題は信行の魔法の力がどの程度か不明なところね。でもやるしかないわよ。やらなかったら、私は良いとしてもあなたは殺されるわよ、信行として。確実にね。」


「分かった。けどなぜ俺が信行として殺されるんだ?あいつが信行で信長の振りをするんだったら俺ではなく信長を殺せよって言いたいよな。」


「はい、はい。」


 もうどうでもいいや。取り敢えず信行を殺すと決心する帰蝶であった。


「信行は何処にいるんだ。」


 帰蝶は魔法を使い現在の居場所と思考を探ってみた。


「一階の一番奥の部屋ね。安心して寝てるわよ。夢を見てるわ。あなたを虐めてる夢みたいね。」


「よし、行くぞ。銃は門番が持っているのを持って行こう。しかし銃はきちんと管理してたのに今回の件に合わせて盗んだんだろうな。今度、持ち主以外に使えない装置を考えないと。なぁテレパスなら、お前もマインドコントロール使えるんじゃないのか。」


「使えるかもね。」


「取り敢えず文句言いたいからさ。十日間も閉じ込めやがって。マインドコントロールを使えなくしてくれ。文句を言ってから殺す。出来ない時は起こさずに殺した方がいいな。」


「取り敢えずやってみる。信行の力が分からないから魔力最大で魔法発動するから。それでもあいつがマインドコントロール使ってきたら魔法はダーリンが使ったと思わせて、私は隠れてあいつを殺す機会を窺うから。じゃあ、行くわよ。」


 二人はこっそりと信行の部屋の前まで来た。信行はまだ寝ているようだ。


「ドア、開ける前に魔法を使え。」


「分かった。最大の魔力で使うわよ。」


 帰蝶は自分が使える魔力を最大に使って信行が魔法を使えないように相手と同じマインドコントロールの魔法を掛ける。


「掛かったわ。信行は意識を意識を失くした。夢も見ていないわ。」


「よし入るぞ。」


 ドアを開け、こっそり中へ入ると蝋燭ろうそくの明かりをつけた。見回すと信行はいない。


「おい、居ないぞ。ここにいたんだよな。」


「確かに居たわよ。逃げられたかしら。」


「逃げられたら大変だぞ。」


「もう、やばいかも。」


「なんだ、これは?」


 吉法師は、布団をめくってみた。するとそこには粉になった炭が人型に残っていた。


「おい、これって、信行じゃないのか?」


「そ、そうみたい。魔力込め過ぎたみたい。(∀`*ゞ)テヘッ 」


「しかし、今回の件で分かったけど、相手の能力を知る魔法が必要だな。神様にお願いしてみるか。」


「え?どうやって?出来るの?」


「当り前だ。熱田神宮でお願いすれば神と会話できるぞ。」


「え?本当?だったら私もっとスタイル良くしてもらおう。ボンキュッボンで。」


「まぁ、確かに、お賽銭入れて願い事するけど。普通は神は聞いてくれないぞ。」


「でも直接のお願いなら何とかなるかもね。今度行こうよ。」


「そうだな。それより、帰って風呂入るぞ。それから肉だな。先ずはの親父殿起こして後の事を任せよう。」


 部屋の外に出ると信秀が起きてこちらへやって来ていた。


「吉法師、どうなった。信行の言う事を無理やり聞かされて、あいつの言うがままに行動させられたぞ。」


「もう大丈夫だ。あいつは殺した。俺はあいつに十日も牢に閉じ込められてたんだ。殺すには十分な理由だろう。」


「あー、良くやった。後の事は任せろ。なんにしても夜が明けてからだな。」


「俺は直ぐに帰るぞ。」


 吉法師と帰蝶は車に乗り込み那古野城へと急いだ。十日も風呂に入って無い所為せいで気持ち悪く、直ぐにでも風呂に入りたかった。

 那古野城へ到着すると城は篝火かがりびが煌々と焚かれ異常事態であることを物語っていた。城へ入ると政秀がいた。吉法師はこの異常事態の件を訪ねた。


「爺、どうした。何かあったのか。」


「若様、何かあったのかじゃありませんぞ。若が末森城で行方不明になったからです。殿に聞いてもここには来てないとおっしゃるし、まるで意思が無いかの様な感じで変だしたぞ。」


「原因は信行だ。詳細は親父殿にでも聞け。俺は風呂に入って寝る。」


 吉法師と帰蝶は車を風呂の横に停車した。


「帰蝶、風呂入れて。俺はずっと牢屋の中だったんだから。」


「はい、はい。旦那様。少々お待ちくださいませ。」


 吉法師は縁側でお湯が入るのを待ちながらすっかり雨が上がり晴れ上がった空に浮かんだ月を眺めていた。


「お湯入ったわよ。一緒に入る?」


「いや、一緒は不味いでしょ。」


「何が不味いのよ。何に対して?」


「いや、小さいころから一緒に入ってたら兄妹みたいになっちゃうだろ。まぁ、月でも眺めて待ってろ。でもこういう時に離れているとドラマとかではさらわれちゃったりするんだよな。」


「そうそう。実は殺したと思っていた敵が生きていてさらうのよね。」


「おい!それフラグじゃないよな。おちおち風呂に入ってられないぞ。どうする、今度は本物の織田信長がさらいに来たら。」


「それは大丈夫よ。本物は月を見てたら来ないって言ってたから。月でも見てるわよ。」


「ん?まぁ、先入って来るぞ。」


 こうして吉法師は久しぶりの風呂の中で月を眺めながら一人寛ぎ、尾張の夜は更けて行く。尾張の夜は十日ぶりに平和であった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る