フリーバトル-1
それからは、いつもケントと二人でフィールドに出るようになった。
前日の夜にメールで約束を交わして、朝から集合。俺は短剣、ケントは長剣。それぞれの武器を片手に門の外へ繰り出して、日がな一日モンスターを狩り続ける毎日。
ケントの狩りの腕に、俺は何度舌を巻いたか分からない。筋力値こそシュンほどではないものの、体と武器を操るセンスがずば抜けて高かった。聞けば、六歳の頃から十年間も剣道を続けているらしく、既に高校生では国内に敵なしと言われるほどの腕前らしい。
ゲーム勘も良い。向こうではあまりゲームに触れる機会は多くなかったらしいが、
これほどの実力に加えて絶世の美少年であり、人当たりもいい彼には、とっくに俺以外の友人がいてもおかしくなさそうだったが、ケントはこれまで、人と深く関わることを避けてきたという。
「向こうで仲良くしてた皆を、全員置いてきちゃっているから……。なんだか、すぐにこっちで新しい友達を作る気になれなくて」
そう話すケントの表情に、俺はハッとさせられた。この世界にきて、きちんと向こうの世界に残された人たちのことを考えた瞬間が、俺にいったい何度あったろうか。
「でも、君とは不思議と、抵抗なく話せたんだ。競い合うイベントクエストっていう出会いが良かったのかも」
「向けられたのが敵意だから?」
「うん、友好的にこられると、いつも身構えちゃったから」
同じ十六歳でも、かたや半分引きこもってゲームばかり極めてしまった俺と、たくさんの友人に囲まれて、学業にも打ち込みながら、毎日剣を振り続け日本の頂点に登り詰めたケント。普通に暮らしていたら、俺たちは絶対に交わらなかったことだろう。
ところが俺たちは、不思議なほど息が合った。あまり集団でいることを好まない俺が、一日中一緒にいても煩わしさを感じないのは、家族以外ではケントが初めてだった。俺一人では心もとなかったレベル域のフィールドにまで足を伸ばして効率も上がり、俺たちは順調にレベルを上げていった。
そうして、この世界に来て三週間が経過したころ、最初の壁にぶち当たった。
レベルが上がりすぎて、セントタウンから日帰りで行けるフィールドには、もう経験値の足しになるモンスターがいなくなってしまったのだ。
俺とケントのレベルは、ともに21まできていたが、ギリギリまで遠くへ足を伸ばしても、一番強いモンスターはレベル10のオーク。このゲームは自分とのレベル差が5以上離れてしまうと、経験値効率が著しく下がってしまう。
レベルはひとつ上がるごとに、次のレベルアップに必要な経験値量が加速度的に増加していく。20から21に上げるだけでも三日間かかった。慣れてくると張り合いのない狩りは単純作業となり、そう長い時間続けていられなくなってしまった。
「もっと遠いところまでいけたらね……」
「外泊なんて、親が絶対許さないだろ……」
セントタウンは始まりの街だ。セントタウンから離れたフィールドほど、経験値効率の高い、強いモンスターが湧いているのは間違いない。
だが、朝から晩まで遊び呆けている俺たちに、内心難色を示していること間違いなしの親に対して、「泊まり掛けで遊びにいきたい」なんて言い出す勇気はお互いない。
俺たちが《フリーバトル》にハマったのには、そういう経緯があった。
フリーバトルはPVP、対人戦だ。定められたアルゴリズムに従って動くモンスターを相手にするのとは、全く異なるアクション体験がそこにあった。
動かすのはコントローラーではなく自身の体、という違いはあれど、瞬間の判断力、反射神経、ゲームを極めた俺の得意とするそれらが最大限発揮できる。対人戦には適性があるはずだった。
しかし、誤算だったのは、ケントが向こうでさんざん、一対一の斬り合いを先行体験してきていたことだ。謂わば実戦のベータテスター。俺は見事に負けまくり、何度も何度も、心と体を文字通り粉々に砕かれた。
「勝つまでリベンジ」がゲーマーの執念。その日以来、俺はケントに数えきれないほど再戦を申し込んでは玉砕を繰り返した。
フィールドにめっきり出なくなってから一週間が経過し、対人戦の腕はかなり磨かれた自覚があるものの、ついに一度としてケントに勝てないまま――
今日、この世界にきて、ちょうど一ヶ月目を迎えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます