ユートピア-1

 生まれ変わり。転生。そんな、自分の存在が一新されたような爽快感に包まれて、俺はのそりと上体を起こした。


 途端、爽やかな風が正面から顔を直撃し、髪をかき乱した。うっ、と思わず目を閉じてから、俺はゆっくり、再び目を開けた。


「……は」


 飛び込んできた光景に、呼吸を忘れた。


 白雲はくうんを散りばめた蒼穹の下に、時代を千年はさかのぼったようなヨーロッパの街並みが広がっている。


 正面を貫く目抜通りは、布切れ同然のよそおいをした大勢の人間で賑わい、城や協会とおぼしき巨大な尖塔が構える、街の中心部へと続いている。石畳の上をガラガラ言わせて馬車が走り、露店商の威勢のいい客引きの声が、ケルト音楽に乗せてここまで届いてくる。


 呆然と、辺りを見回す。俺は街を一望できる丘の上にいた。背後を振り返ると、大きな池があった。歩み寄り、覗き込むと--澄んだ水面に、慣れ親しんだ俺の顔が映った。


「俺の、顔だ……」


 信じられない。いっそ残念なぐらい俺の顔だ。もう少しディテールをぼかしてくれた方が男前になったのではないかと思うほど、ほぼ完璧に俺の容姿がアバターに反映されている。


 いや、そもそも……今の俺の体は、本当にアバターなのか。


 手を握ったり、首を鳴らしたり。試しに色々動かしてみたが、一切の不自由もラグも存在しない。むしろ、慢性的な肩こりや寝不足の気だるさが解消され、普段より体が軽いぐらいだ。


 今一度あたりを見渡す。この、美しい世界が……仮想空間? あり得ない。風の匂いも、太陽の温かさも感じる。何より、この景色の解像度はなんだ。


 最新鋭のグラフィック技術も裸足で逃げ出す最高画質。まさに、現実にモノを見ているかのよう。


 ここは、本物の異世界ではないのか。その可能性の方が、俺にはよっぽど現実味があった。


 再び池を覗き込む。ジャージ姿でカプセルに入ったはずだったが、水面に映る俺はずいぶん珍妙な服装をしていた。


 麻のシャツにレザーの胸当て。それだけでも馴染みがないが、極めつけは、右腰に差してある革製の鞘。三十センチほどの……恐らく、短剣。武器だ。

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