私は、貴方と出来るだけ近付きたかった。

 ぶつかって、壊れて、ぐちゃぐちゃになって、跡形なく消え去ったとしても、それを幸せとさえ、あの頃の私には思えたの。

 同時に、私だけがこんな想いでいるのは、辛かった。

『彼氏にね、愛想尽かされたみたいなんだ』

 貴方がそうぼやいた時、これはチャンスなんじゃないかって思った。

『私なら、貴方にそんな顔させないのに』

 私が顔を近付けても、貴方は私を拒まなかった。

 私が貴方に触れても、貴方は私を拒まなかった。

――友達だから、やめてって、嫌でも言えないんだ。

 涙は自然と溢れた。

 久し振りだった。泣こうと思わずに泣いたのは。

 貴方は何も言わなかった。

 ただ、全てが終わった時に、

『ごめんね』

 って、そう、言った。

 謝らないで。

 そんな事を、言った気がする。

 どうしても貴方に触れたい私と、私には一切触れようとしない貴方。

 貴方の中で、私がどう居るのかはわからない。

 けれど少なくとも貴方は、名前のない私達の関係に、不透明な事柄は加えたくなかったのだと、貴方との関係そのものがなくなった時に、気付いたの。

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