八月上旬、ある夏の日。

 羽村堰近くの玉川上水で、わたしは絵を描いていたの。

 そしたら貴方、急に『何の絵を描いてるの?』なんて声を掛けてくるものだから、わたしはとても驚いたのをよく覚えているわ。

 わたしが少し怯えながらも、

『風景の絵だよ。練習してるの』

 と答えると、貴方はそれを見たがった。わたしは嫌だと言っていたのに、最終的にスケッチブックを奪い取られたわ。今思うと、貴方のその突拍子もないところは、初対面相手にしても変わらないのね。そしてそのお詫びに、近くの自販機でジュースを買ってもらった。もしかしたら気付いていないかもしれないけれど、それ以降、あのジュースは、私の中で最もお気に入りなのよ。

 それでわたし達は、仲良くなった。

 わたしが羽村まで行く事は少ないけれど、貴方はよく立川へ来るから、日にちが合えばいつも一緒にいた。

 時々、貴方の家で絵を教える事もあったけれど、わたしは教えられる程上手くないし、貴方も教わる程下手ではなかった。それに、もう絵は殆どやめてしまったようなものだから、絵での関係はすぐに終わってしまった。

 絵だけじゃなくて、勉強も、歌も、お菓子作りも、貴方はわたしに教わりたがっていたけど、わたしよりも貴方の方が上手だった。少なくとも、わたしはそう感じたわ。

 貴方は聞き上手で、わたしの話をいつも聞いてくれる。

 学校の事とか、家の事とか、部活の事とか、好きな人の事とか。

 思えば殆ど愚痴になっていたかもしれないけれど、それでも貴方は飽きずに聞いてくれた。

 わたしが欲しい言葉を、一つも違わずくれた。

 わたしにとって貴方が、一番の友達だって思えたの。

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