1
八月上旬、ある夏の日。
羽村堰近くの玉川上水で、わたしは絵を描いていたの。
そしたら貴方、急に『何の絵を描いてるの?』なんて声を掛けてくるものだから、わたしはとても驚いたのをよく覚えているわ。
わたしが少し怯えながらも、
『風景の絵だよ。練習してるの』
と答えると、貴方はそれを見たがった。わたしは嫌だと言っていたのに、最終的にスケッチブックを奪い取られたわ。今思うと、貴方のその突拍子もないところは、初対面相手にしても変わらないのね。そしてそのお詫びに、近くの自販機でジュースを買ってもらった。もしかしたら気付いていないかもしれないけれど、それ以降、あのジュースは、私の中で最もお気に入りなのよ。
それでわたし達は、仲良くなった。
わたしが羽村まで行く事は少ないけれど、貴方はよく立川へ来るから、日にちが合えばいつも一緒にいた。
時々、貴方の家で絵を教える事もあったけれど、わたしは教えられる程上手くないし、貴方も教わる程下手ではなかった。それに、もう絵は殆どやめてしまったようなものだから、絵での関係はすぐに終わってしまった。
絵だけじゃなくて、勉強も、歌も、お菓子作りも、貴方はわたしに教わりたがっていたけど、わたしよりも貴方の方が上手だった。少なくとも、わたしはそう感じたわ。
貴方は聞き上手で、わたしの話をいつも聞いてくれる。
学校の事とか、家の事とか、部活の事とか、好きな人の事とか。
思えば殆ど愚痴になっていたかもしれないけれど、それでも貴方は飽きずに聞いてくれた。
わたしが欲しい言葉を、一つも違わずくれた。
わたしにとって貴方が、一番の友達だって思えたの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます