第14話考え抜いた個性

 

 夫婦でやっていると「二人だけの鳥の呼び方」が出来たりします。その中でも可哀そうとは思うのですが、主人はよく私に


「地味鳥はお前に任せた」と言います。


鳥類が面白いのは、オスメス別種のように色の違うものもいれば、ほんのちょっと、顔の色や嘴の色が違うもの、そしてほとんど雌雄同体というものがいることです。私たちの家で言う「地味鳥」と言うのは、ほぼ雌雄同体で鮮やかな色のないもの、のことです。代表格はスズメになります。しかしスズメもよく見ると、茶系であまりにも完璧にコーディネートされ過ぎていて、ほっぺの黒はアクセントですが、もっと鮮やかな色であれば美しいと思います、前述したベニマシコのように。


そして今、私の昼間の観察場所、一級河川のヨシ原には彼らが高らかに鳴いています。ゴールデンウイークが始まる前に数羽の声を聞き、

「ああ今年も無事にやってきたね」

と今は大合唱、歌の競い合いをしています。


「オオヨシキリ」


東南アジア方面からやって来る夏鳥、私の住んでいる県では準絶滅危惧種に指定されています。何故なら彼らは植物の「ヨシ」でしか子育てをしないと言われて、日本でヨシ原は近年急激な勢いで減っているのです。


「ギョギョシギョギョシ ギョギョ」


朝から川辺はこの鳴き声であふれています。全体的にオリーブ色というか、ちょっと濃いベージュという羽の色、お腹は白、しかし、口を大きく開いて鳴くと、口の中のきれいな赤が見えます。小さな鳥が、大きな声で一生懸命鳴いている姿は、「やっぱりいいな」と思います。昔はこの鳴き声がそのまま呼ばれて、オオヨシキリのことを行々子、ぎょうぎょうしと言っていたそうです。


 

 昨日もバードウオッチングに出かけましたが、田植えの前に掘り起こした土に、動いているのはわかるのですが、本当に判り辛い鳥がいました。しかし飛び立つとき

「ジュリ」と鳴いたので

「ヒバリだろうね」と主人と話しました。

少し白くなった土の上でも、茶色い羽は完全なカモフラージュ、ヒバリは大好きな地味鳥です、何故なら、私は鳥に生まれ変われるのなら

「ヒバリになりたい」と思っているからです。


思い起こしてみれば、田舎の田んぼを全部宅地にしたようなところで育った私は、バードウオッチングを始めてからヒバリの鳴き声に「気が付いた」のです。

歌が好きなので(好きなだけでそう上手ではありません)シューベルトやメンデルスゾーンの歌の方を先に知りました。そして改めてヒバリのさえずりを、音楽家に称えられるようなその声を聞きました。

高く飛んで、美しい声で歌い続ける。オオヨシキリがやって来るまでは川辺は彼らの独壇場、もちろんセッカ、ホオジロ、ホオアカという私に任された感じの鳥たちも鳴きますが、高い所から降ってくるような歌声は全くの別物です。一方オオヨシキリはと言うと、虫に例えるならクツワムシ

「ガチャガチャ ガチャガチャ」と鈴虫やコオロギとは全く正反対の声です。


 しかし思うのです。日本にずっと住んでいる美声のヒバリ、しかも高く高く飛ぶ上に、ホバリングの能力も兼ね備えています。ホバリングは鳥類でもしない、できないものの多い能力の一つです。

夏にしかやって来ないオオヨシキリが、それに対抗するにはと考えたのが、低く飛んでヨシの上部に止まり、高らかに鳴くヒバリと真反対の声で鳴くこと,

ではないのだろうかと。

それは一種の「住み分け」に近いものかもしれません。

オオヨシキリは「ヨシ」の中に潜んでいる昆虫を食べると言われています。一方ヒバリは地面をウロウロしたり、ホバリングで虫をとらえたりします。何百年、何千年に渡って作り上げられてきた、生態系の完成の一つと私は思うのです。


「これならば ヒバリに勝(まさ)ると 行々子」


年齢のせいか、一句詠む癖?が出来てきました。しかしながらオオヨシキリの事を調べていくうちに、彼らのことを詠んだ小林一茶の句を知りました。


オオヨシキリのことが大好きな私にとって、この句は脱帽、参りましたと言う他ありません。

ここでその句を紹介することは簡単なのですが、申し訳ありませんがちょっとこれを詠んだ後に調べてもらえたらと、思います。


オオヨシキリは全国的にいる鳥です。その声を聞いた後、一茶の句を読まれたなら、一層この偉大な俳人の感性が染み込むようにわかるのではと思います、

きっと私のように。




 


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