生徒会に咲く百合の華

凪紗わお

第1話 八ツ橋睡蓮

 平たく言うと、私は今いじめを受けている。ものを隠されるとか、机やノートに落書きをされるなんてことは日常茶飯事で、怒りなんて感情は私の中に微塵もない

 そんな私の名前は八ツ橋やつはし睡蓮すいれん。住職のおじいちゃんがつけた名前だ。さて、話を戻すね。私が虐められてる原因はただ一つ

「お前のせいで彼氏と別れたんだけど?」

「八ツ橋のせいで事故に遭いかけた」

「お前のせいで鳩の糞を踏んだ」

 一見全く関係ないように見えるけど、私のせい。私には他人を不幸な目に遭わせる体質みたいなのがある。だから私だって他人と関わらないようにしてきた

「……ごめんなさい」

 謝らなくていいのに。っていうか、そうやって私に関わったらまた不幸になるよ?


「オラァ!私の睡蓮に何してくれとんじゃワレェ!」

「あやめ、気持ちは分かるけど落ち着いて。気持ちは分かるけど。あと君アイドルだろ」

「あ、あやちゃん先輩。竜胆先輩も」

 そんな私がこの百合乃音ゆりのね学園で会話出来るのは四人。そのうちの二人が彼女達だ

「ったく。睡蓮もちょっとはやり返しなさいよ」

 ピンク色のツインテールをぴょんぴょん揺らすおちび……じゃなくて、小柄な子が洲浜あやめ、生徒会書記。ゲームに関してはプロゲーマーレベルの腕前を持つ現役アイドル。これでも三年生

「掃除当番だと椿から聞いていたけどあまりに遅いからね。迎えに来たんだ」

 黒髪ショートボブに紫のメッシュを入れてる僕っ娘で学園の王子様が赤福あかふく竜胆りんどう、生徒会長

「ところで君たち、生徒会役員に手をあげるということは……覚悟は出来てるんだよね?」

「ひぃぃい!!」

「ごめんなさぁぁああい」

 あ、逃げた。そう、私は生徒会役員なのだ。うちの生徒会はいわゆる立候補制ではなく、年度始めに開かれる人気投票で一位から四位を、一位である会長が庶務を務める五人目を指名するシステムなんだけど、何故かそれで竜胆先輩は私を選んだ

「……さ、行こうか」

「あ、リン!抜けがけダメ!」

「あ、あはは」

 学園の王子様に手を引かれ、本物のアイドルに腕に抱きつかれ生徒会室へ。どうしてこうなった



「とーちゃく!」

「お、遅くなりました」

 学校で唯一落ち着ける場所が生徒会室ってのもどうなんだろう

「やっほ、睡蓮。今日はあたしの隣ね」

 私の幼馴染で人気投票三位の副会長、落雁らくがん椿つばき。私が知ってる限りでは彼女に降り注ぐが一番キツいと思うけど、それを語るのはまた後日

「言ってくれりゃ、ウチの仲間派遣したのに」

「猛火仙盤って最早義賊よね」

 人気投票四位にして不良グループ猛火仙盤もうかせんばんのリーダー、松風桔梗。生徒会では会計を担当してるんだ

「怪我はない?」

「は、はい。詰め寄られただけなので」

「そっか。良かった」

 姐御肌っていうのかな。素行は褒められたもんじゃないけど、誰にも等しく優しく接して気遣いができる人。松風さんを毛嫌いする人って先生だけだと思う

「さて全員揃ったことだし会議を始めよう」

 会議と言っても生徒の皆の意見を匿名で受け付ける目安箱に入ってる投書の中から実現可能なものがあるかと、担当者を決める程度。そしてその投書を読むのが私の主な仕事

「えっとまず……ソフトボール部の部費を上げて欲しいとのことです。具体的な用途として練習道具のアップグレードなどが記載されています」

「ふむ、ソフト部の実績は?」

「去年は関東大会出場、今年はまだ大きな大会自体まだ。あたしの友達が言ってた」

「分かった。後日先生に掛け合ってみよう」

「次ですね。封鎖されてる屋上前の階段と踊り場に不良生徒が溜まっているそうです」

「桔梗?」

 ジト目で桔梗さんを見るあやちゃん先輩。気持ちはわかる

「待ってくれよあやちゃん先輩、ウチのメンバーって決まったわけじゃないでしょ」

「でも容疑者候補ナンバーワンよアンタら」

「じゃあウチが担当します。ウチの奴ならぶちのめす。そうじゃなかったら厳重注意」

「暴力は感心しないけど仕方ないか。睡蓮、次」

「はい……あ、これは名前が入ってますね、風紀委員長からです」

「マジか。ウチか?」

「いえ、携帯電話はいいとしてゲーム機や大量のコスメの持ち込みが見受けられるので抜き打ち検査をすべきではないか、とのことです」

「コスメは大目に見てほしいわね。私以外にも芸能人は何人かいるんだし。ゲームは論外」

「キミがそれを言っていいのかい?」

「分かってないわねリン、ゲームは放課後家に帰ってから友達フレンドと楽しむものなのよ」

「コスメはあたしも大目に見てほしい。ほら、あざを隠すのにも使ったりするし」

 そう言って腕を隠す椿。なんだ

「そうだね。ではポーチ1つ分としよう。それ以上は禁止で。椿、風紀委員に実施する方向で後で連絡を」

「りょーかい」

「あ、次で最後ですね。2年B組の方から。読みます」

 この内容は……確かに、私も気になるな。それに生徒会皆さんの意見が聞ける

「庶務の座をぜひ私に、とのことです。」


「「却下」」


「ええー……」

 即答ですか。少しの議論すら無しですか

「って何でですか?私より優秀な人かもしれないじゃないですか」

「アンタしかいないのよ、睡蓮。この46代生徒会の庶務は。なぜなら────」

「な、なぜなら……?」

「私達は全員──」


「「八ツ橋睡蓮を愛しているから」」


 お父さん、お母さんどうしよう。人生初の告白された相手は全員女の子で、しかも学園の人気ベスト4なんです

「さあ睡蓮、僕達の内誰を選ぶんだい?」

 制服を緩めるご一行。どうやら私の貞操も危機に晒されているようだ

 ……こんなとこで1年間、私はやっていけるのかな

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