第156話:奇龍の隣

奇龍目線___




 雨梨はバズーカ砲のイメージが強いけど、拳銃の腕もある。だけど前の戦いで利き手を負傷しているから左手で撃つからぶれてしまって桂樹には避けられている。雨梨だって怪我して安静にしておくべきなのに戦っている。その間にも先輩は血を吐いている。


「奇…龍…。」


「はい。」


「最悪の…時は…二人だけで…逃げるんだよ…。全滅は…避けないと…いけない…。」


 そんなこと出来ない。だけど雨梨が手こずっている間にも先輩はどんどん良くない方向に向かっている。本当は俺が殺らなきゃいけないんだ。俺がカタをつけないといけないのに、俺は何を躊躇っているんだ。今までだって何人も殺してきたというのに。蒼桜先輩が死にそうなのに。雨梨がピンチなのに。俺は桂樹を撃つことに躊躇うなんて。


「奇龍…。」


「先輩話さないでください。」


「奇…龍…。躊躇う…のは…当たり前…だよ。友達…だから…。」


 先輩そんなこと言わないでほしい。先輩はきっと死ぬ覚悟をした。もし先輩が死んで俺が後悔しないように今言っているんだ。そんな蒼桜先輩を死なせたらダメだろ、俺。友達だって言うけどもう違う道を歩んでいるんだ。今更もう一緒にはなれない。


「あぁっ!」


 雨梨が右手を抑えている。そしてその雨梨に馬乗りになっている桂樹。


「百鬼、残念だったな。怪我してるのバレバレだぞ。」


「うぐっ…あっ…うっ…。あぁっ!!」桂樹はわざと雨梨の怪我をしている部分を握り上げた。雨梨は聞いたことない悲鳴を上げ身を捩るが、桂樹に馬乗りになられていてそれすらままならない。


「先に百鬼を殺すのもいいかもな。」


 悲鳴を上げることしか出来ない雨梨の右手首は傷が開き、血が滴り落ちている。


「桂樹やめろ!」


「奇龍。見ておくんだ。俺は白軍でこういう殺し方も覚えたんだよ。」と桂樹の口の右側が上がると同時に雨梨の悲鳴がこだまする。


「雨…梨…。」蒼桜先輩は何とか雨梨の方へ行こうとする。


「桂樹やめてくれ!」


「百鬼、死ぬほど痛いだろ。死ぬまで続けるぞ。でも顔見知りだから殺してほしいと言えば楽に殺してやる。どうする?」


 ぱっと手を離された雨梨は


「はぁっ…嫌だ。僕は…3人で生きて帰る。」


「そうか。残念だな。そこまで黒軍に残りたがる意味が理解できないよ。君ならどこでも活躍出来るだろうに。」


 桂樹の手がもう一度雨梨の右手を掴もうとしている。俺は堪らず拳銃を抜き、桂樹の左肩に撃ち込んだ。


「雨梨!」


「奇龍…ごめん。」


「雨梨大丈夫か!?」


「大丈夫…。」


 桂樹を見ると地面に倒れ込み、肩で息をしていた。俺は知っている。桂樹はこのままだと蒼桜先輩より早く死ぬ。


「桂樹…。」


「奇龍…やっぱり上手いな。」


「桂樹…ごめん…。」


「謝るな…。ほら…。俺の負けだ…。」桂樹は俺にナイフを渡してきた。トドメを…。


 手が震える。それを見て桂樹はあの日と同じ顔をした。


「トドメは僕がやる。奇龍の隣は僕だ。僕が始末する。」


「お前だったのか…奇龍の隣は。」


「そうだよ。もう奇龍はお前の事を1人で背負う必要はないから。 ここで…死んで。」


「雨梨…。なあ桂樹、あの日本当は俺を斬った後寮に連絡入れたのお前だろ。」


 一瞬目を開き


「さあな。」と答えた。分かりやすいやつ。


「桂樹。ごめんな。」


「奇龍…。お前とあの日離れなければ…今は違ったのかな…?」


「さあな。馬鹿な俺には分からない。でもお前があの時は残ってもここには居られなかった。それは俺でも分かる。」


「お前のそういう所…本当にムカつくよ…。」桂樹は目を閉じた。俺は雨梨にうなづいた。そして雨梨はナイフを桂樹に躊躇い無く突き刺した。

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