第152話:奇龍の怒り

雨梨目線___




 痛すぎる。というか体がずっとだるい。荷物置きに戻ったら直ぐに軍病院に行けと蒼桜先輩から言われている。自分の荷物を部屋に置き病院に向う途中、蒼桜先輩と廊下で会った。いつ奇龍に月花の事を伝えるのだろうか。


「あ、雨梨。無理させてごめんね。」


「大丈夫です。」聞くに聴けれない。どう切り出すか考えていた時。


「神咲!!」


「どうした?」


 この人は確か諜報部隊の3年生だ。


「月花が逃走した。」


「え?何で?」


「諜報部隊が厳重に管理していた部屋から何故か逃げられた。」


「それで行方は?」


「分からない。」


「そ、蒼桜先輩。月花って、月花桂樹のことすか!?」


「奇龍。」後ろで声と手をふるわせていたのは奇龍だった。これは先輩まだ伝えていなかったのか。


「どういうことですか!」


「奇龍、今は落ち着いて。」


 今にも飛びかかりそうな勢いの奇龍の袖を掴む。


「九万里、百鬼。2人は中等部で一緒だったよな?九万里は同郷だよな?行きそうな場所分からないか?」


「わ、分かりませんよ!!俺はあいつが居なくなってから1度も会ってないので!!」噛み付くように奇龍は答える。


「神咲、山梨から帰ってきて早々悪いが班で月花を追ってくれないか?諜報部隊も出動しているが面識ある人間の方が見つけやすい。」


「命令?」


「司令部のな。」


「…分かった。すぐ準備する。雨梨、大丈夫?」


「はい。僕は。」


「羅希達に連絡して。奇龍はどうする?」


「どうするって…俺に聞くんすか?蒼桜先輩は月花桂樹が捕えられているのを知っていたんですよね?」


「ごめん。帰ってきたら言おうと思ってた。」


「もしかして山梨の襲撃者は月花桂樹だったとか無いですよね?」


「そうだよ。俺らは山梨で月花桂樹を含めた赤軍を捕らえて護送した。」


「あいつ…白でもないのかよ。」


「奇龍。きついなら何とかしてこっちに―――」


「蒼桜先輩。俺のこと見くびらないでもらえます?」


「奇龍…。」


 言葉を詰まらせた蒼桜先輩。僕は


「奇龍、先輩は心配してるんだよ。僕も奇龍が心配だよ。」と言った。その瞬間


「うるさいな!!!」と奇龍は光のない目を僕らに向けた。


「何喧嘩してるの奇龍!」


「姉ちゃん…。」


 凛音はとにかくどうしたらいいか分からないような表情で僕らを交互に見ている。


「奇龍、ごめんね。月花を一緒に探してもらえる?」


「嫌です。」


「奇龍!」


「俺は一人で探します。命令違反の罰則も受けます。」


「奇龍、あんたね―――」


「そんなに言うなら俺を斬ってでも止めたら。」


「奇龍先輩…。」


 こんなに自暴自棄で周りの声が届かない奇龍は初めてだ。どうしたらいい?僕はどうすればいいんだ。


「とにかく俺のことはほっといて下さい!」


「奇龍!待ちなさい!」


「羅希。」


「弟がごめん!」


「いや。俺が無神経な事を言った。」


「そんな事ないです。僕が余計な事を。」


「違うよ。とりあえず奇龍はほっておいて探しに行こう。雨梨は本当に大丈夫?」


「はい。」


「本当にごめんね。辛くなったら言ってね。」と羅希先輩が肩に手を乗せてきた。その手は少し震えていた。

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