第148話:支え合える人が必要だ

雨梨目線___

 2時間後凛音は緊急時の顔のまま

「とりあえず行ってきます。先輩方よろしくお願いします。」と言っていた。

「いってらっしゃい。」と羅希先輩が抱きしめる。

「大げさですよ…。」

「そうかもね。でも…こうしたいからさせて。」

 私達がいる。それを強調するかのようにぎゅっと抱きしめる。

「早く帰ってきますね!」

「うん!いってらっしゃい!」

「気をつけてね。」

「気をつけろよ!」

 そんな3人に手を振り、人質と玄と瑞樹と共に基地に向かう。結局羅希先輩が上手く蒼桜先輩に言って奇龍と月花を会わせないようにしてくれた。奇龍がもし会っていたら、奇龍がどうなっていたか想像すら出来ない。暴れたのだろうか、泣いたのだろうか、怒ったのだろうか…会いたかったとは思う。何にせよ奇龍を会わせなくて良かった。必要以上に傷つく必要はない。今も苦しんでいるところに再会させるなんて、誰にも出来ないだろう。月花が登場したことにより、凛音がお義母さんと話していたのも見ていた僕らは、凛音のあの悲しみと苦しみと恐怖が混ざったような顔を思い出したに違いない。奇龍にわざわざそんな顔をさせるために会わせる義務もない。そう自分に言い聞かせながら輸送車の周囲に視線を配る。人質は眠らせてあるし、車内でうとうとと寝る凛音と瑞樹。それを眺めながら、

「玄。僕の班に来ない?」と口に出した。

「え…。」

「今の仕事も悪くないと思うけど、僕の班悪くないと思うよ。僕は…いろんな人を班に呼びたい。考えてもらえる?」

「わ、分かりました。」

 司令塔の件は聞いていた。玄はきっとこれからどうしたらいいか分からなくなってると思う。だから、僕は非現実的な提案をした。それに凛音は玄には“助けて”と自分から口に出来た。たまたまだとしても助けてと自分の口から言っているのは初めて見た。玄は凛音にとって素直に気持ちを言える存在で、玄にとっても凛音が特別な存在なのは見ていて分かる。もし猫音さんが亡くなっていたとしても居場所を失うことは無くなる。玄はとにかくずっと下を向いていた。


 月花達を引渡した後に報告に上がると、引き続き四月一日家への警備を頼まれた。そのため刀やその他の武器も調達する。凛音は今首を診てもらってる。

「雨梨先輩お待たせしました。」

「どうだった?」凛音の細い首は包帯がよく目立つ。

「軽く痛みが出てるので湿布で対応するみたいです。湿布剥がれないように首に包帯巻いておいてって言われました…。ちょっと大袈裟に見えちゃいますね。」

「ううん。無理しないでね。」

「ありがとうございます。」

 辛くないかな?いや、辛いと思う。だけど家族のいない僕はその辛さを具体的に想像することは出来なかった。

「現場に人を置くために玄を配置してもらって、いろんな支援を瑞樹にしてもらうことになったよ。」

「玄も一緒なのは安心ですね。」

 少しでも凛音が安心出来るといいなと思ったのもあって蒼桜先輩が玄の配置を頼んだみたいだ。司令塔のこともあって玄も1人にすると危ないし、きっと周囲の優しさだと思う。

 そんな考え事をしていた僕の思考を遮るように電話が鳴る。

「もしもし。」

「雨梨?頼みがあるんだけど…。」蒼桜先輩だ。

 凛音の義理母が家を出るのが今日らしい。凛音のことも考えて、夕方以降に帰ってきて欲しいと。戦力面を考えるとあまり空けておくのは良くないけど、司令部からは日付が変わる前に帰ればいいと言われているし、なんとか不審がられないやり方で帰らないと…。

「分かりました。」

「どうしたんですか?」

「馬の様子見てきて欲しいって。日付が変わる前に着けばいいし、馬の様子見に行こう。」

「え、あ、はい!」

 わざとらしかったかな?でも今は僕も凛音をすぐ家に連れて行くことなんてしたくなかった。僕の大切な仲間達は傷つきに行く必要はない。

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