第149話:反抗期

凛音目線___

「優和、大丈夫だよ。」

 泣いている優和のことを抱きしめる。実家に帰ってきたらお義母さんが出ていったらしい。弟は二人とも激しく泣いている。

「お姉ちゃん、お母さん帰ってくる?」

「さあ…ね。」とつい優和に顔を見られないように強く抱きしめる。きっと帰って来ない。だから簡単に帰ってくるなんて言えない。私が居なければ優和がこうやって泣くことも、佑が母親を失うこともなかった。

「ごめんね。」

 そんな声は佑の泣き声で消された。


「お父さん、本当にお義母さんと別れるの?」優和が泣き疲れ眠り、佑も機嫌よく寝ている今しか聞けない。

「当たり前だ。子供に手を上げるなんて。」

「でも佑はまだしも優和は?」

「それなんだが…大和を辞める気はないか?」

「え?」

「地元の農業専門校だ。馬の専門が設けられてるし実家からも通える。凛音がいれば2人も寂しくないだろう。あそこなら編入は出来る。」

「何を言ってるの。」

「お父さんはな、もう黒軍で凛音が傷ついたり危ないところを見たくないんだ。」

「つまり、侵入者の一件でお父さんは怖くなったってこと?」

「そうなるな。お前は琴音が遺してくれた大切な子なんだよ。」

「お父さんは分かってた筈。おじさんも黒軍で戦死したと聞いたよ。黒軍に馬を出荷して天寿を全う出来た馬がどれほど少ないかも知ってるでしょ。」

「分かってたつもりだった。今は衝突も少ないし、綺羅に意思を尊重するべきだと言われて凛音の意思を尊重した。だけど凛音が大和を選んだのはこの家に居ずらかったからだろ。神咲君にでも誘われたんだろ?もう大和にいる意味なんてないじゃないか。」

「分かってない…分かってないよ。お父さんはいつも分かってない。確かにこの家は居ずらかったよ。優和に何度嫉妬したか分からない。私の病気もいじめも、器用にお義母さんと付き合えないことも、お父さんが気づかないことも辛かったよ。辛かったよ。でも辛い所から逃げるために私は大和に入ったわけじゃない。」

 高校生にもなって上手く言葉が紡げなくて苦しくて涙が出た。今の私にはお父さんの私を落ち着かせようとする手の温もりすら気持ちが悪かった。

「凛音…。」

 お父さんの手を払い

「ごめんね。私は強くなるために、変わるために大和を選んだの。…逃げるためでも…追い出された訳でもない。私はまだ大和を辞める気はない…!」感情の昂りと共に発作で睡魔が私を包んでいく。

「凛音…ごめんな。」

「謝らないで…お父さん。」

 全て言い終えるかどうかのタイミングで私は睡魔に口を塞がれた。


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