第146話:側にいた
蒼桜目線__
「たすく。大丈夫だよ。」
ぐずってる弟をあやす凛音はどう見てもお姉ちゃんだった。
「凛音。優和は?」
「上で先輩とゲームしている。」
「たすくの面倒見てくれてありがとうな。凛音は大丈夫?」
「うん。」
佑君を渡すと凛音のお父さんは佑君をベビーベッドに寝かし、
「お父さん…?」
凛音をきつく抱きしめた。
「ごめん。ずっと気づいてやれなかった。」
「お父さん…。」
「お母さんが居た方が凛音も寂しくないと思っていた。弟も出来て凛音も喜んでくれてると思っていた。本当にごめん。」
「お父さん…これからどうするの?」
「向こうはとりあえず出ていくって。」
「そっか…ごめんなさい。」
「いや、本当にずっと気づいてあげれなくてごめんな。」
すると凛音は何年も張り詰めていた糸が切れたのか、子供のように声を上げて泣き、父親も目に涙を浮かべていた。
泣き疲れて寝ている凛音に学ランを被せると
「いつも娘がお世話になっています。」と言われる。
「いえ…。」
俺は正直この人と上手く話せない。凛音の辛い時に気が付かなかったのに、今更父親顔するなよと本当は言ってやりたいのに、凛音が悲しむことを知っているから言葉を飲み込んだ。
「娘はきっとこんなに辛いと泣いたことは初めてです。我慢させていたんですね。」
何にも返せない。いや、返したらだめだ。
「ごめんな。」と凛音を撫でるのを見た俺は我慢できずに口を開いた。
「凛音はずっと苦しんでいました。俺はそれを側でいつも見ていました。俺は凛音の苦しみがこれで終わったとは思いません。凛音は一生苦しみ続けると思います。」
「その通りだろうな。」
つい怒りをぶつけた俺にそう返してきたことに余計に怒りを覚える。
「蒼桜にい…。」
「凛音?」聞いてた…?
「行かない…で。」手を伸ばす凛音の手を強く握る。まるで自分の方がずっと側にいて、自分が守ってきたと見せつけるかのように。
「行かないよ。そばに居る。」
「良かった…。」
それを見ていた凛音の父親は苦しそうに立ち去って行った。
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