第141話:家族というものは分からないけれど

雨梨目線___

 熱っぽいな…。右手首は酷く傷んで少し休みを貰ったのに休ませまいとしてくる。それでも目をつぶり少しでも体を休めようと目を閉じる。

「雨梨先輩。」

「凛音…?」気がついたらちょっと寝ていたみたいだ。

「体調どうですか?」

「ごめん、大丈夫…。ちょっと寝てた。時間?」

「まだ時間じゃないんですけど、お父さんとか起きてくる時間なので目が覚めちゃって…。」

「そっか。」起き上がろうとすると、おでこのタオル落ちる。凛音が乗せてくれたのか。午前3時半。馬の世話があるとしても、起きるのには少し早すぎる。多分目が覚めたんじゃなくて、早めに起きてくれたのか。

「雨梨、寝起きでごめん。ちょっと来て。」

「はい。すみません、結構寝ちゃって。」

「大丈夫だよ。それより、これ…。」

「これは…。凛音、侵入者だ。」

「分かりました!」

 熱っぽさや寝起きのだるさなんて吹き飛んだ。


「奇龍と雨梨はここを守って。ここの馬はまだ銃火器の音に慣れてないから3人で行ってくる。」

「はい。」

「任せてください!」

「四月一日さん、2人の指示に従って建物から出ないでください。」

「分かりました。凛音。」

「何?」

「気をつけて。」父親ってこういう顔をするもんなんだ。心配で行って欲しくないと言わんばかりの顔をしている。

「うん。」と凛音は短く答え、

「行くぞ。」

「はい。」2人と共に出ていった。

「とりあえずなるべく一部屋に居て貰えますか?」

「分かりました。起こしてきます。」

 優和君を起こして連れてきた四月一日さんは優和君の手を強く握っていた。凛音の手も昔は握られていたのかな。それが家族ってものだよね。孤児院出身の僕は大人からあの様にされた事はない。古い記憶を無理矢理ほじくり返してこられるような不快感が募る

「雨梨。大丈夫か?」

「大丈夫。でも左で撃つから、もしもの時は頼むね。」

「分かった!」と奇龍が肩を叩いてくる。そうだ。僕には家族は分からないけど、僕には奇龍も仲間もいる。

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