第121話:大切すぎる存在
蒼桜目線____
奇龍が元気に振舞っているけど、本当は小児喘息が治りきってないことを聞いた。この前の毒混入から退院した後もたまに咳き込んでいるのが聞こえていた。
「奇龍?」
「ごめんなさい…。」
「入るよ?」
ベッドの上で苦しそうに咳き込む奇龍の側に行く。
「起こしちゃってごめんなさい…。」
「大丈夫?」
どうしたらいいか分からなくて、とりあえず背中をさする。少ししたら落ち着いた奇龍に水を渡すと
「起こしてごめんなさい。」と謝られた。
「大丈夫?ここ数日咳き込んでたでしょ。」
「…はい。」
「病院は?」
「今度の休みにまた行きます。」
「奇龍はずっと喘息持ちだっけ?」
「一応。高校入ってからは治まってきてたんですけど、治りきってないみたいです。」
心配かけないようにとへらっと笑い、何も問題ないかのように言う奇龍を見てられなかった。
凛音が銃撃されたあの日、奇龍は雨梨と共に無理をして突撃し、煙を吸い込んだのもあって吸入器を使っていた。
「凛音が病院銃撃された時も今も無理させてごめん。」
「なんで蒼桜先輩が謝るんっすか!」と笑う元気が出てきた奇龍に言われるが、どうしても申し訳ないと思った。
「俺、あの時にきちんと凛音助けられて本当に良かったと思ってるんですよ。そりゃーその後めっちゃ苦しくて死ぬかと思いましたけど、もしあの時合わなかったり助けられなかったら、俺…二度と戦場には立てなかったと思います。」
「戦場に?」
「俺は初めて斬られた時から何回も自分の不甲斐なさを感じてきたんです。姉ちゃんと凛音が誘拐された時も、蒼桜先輩が毒を盛られて倒れてた時も、凛音が失踪したと後から聞いた時も、雨梨が辛い思いをしているのに何も出来なかったときも。だから…5人で居られるから、俺は不甲斐ない自分でも勇気が出るんです。凛音だけじゃない。先輩や姉ちゃんや雨梨が居なかったらいつかきっと勇気が切れて前に進めなかった。俺が笑っていられるのも、戦場にいられるのも…俺が俺でいられるのは4人のおかげなんすよ。特に蒼桜先輩が先輩で良かった。」
「俺が…?」
「先輩気づいてないかもしれないっすけど、全員を注意深く見てくれてるって俺ら気がついてるんで!だから命預けてきたんですよ。」
俺今どんな顔してるんだろ。きっと泣きそうだ。きっと後輩に見せられるような顔はしていない。
「ありがとう…。」
「蒼桜先輩が当たり前だと思っていることは蒼桜先輩にしか出来ないことだから、俺らはそれに救われているんです。って…なんか恥ずかしくなってきた!!」
照れて後頭部をかいて笑う可愛い後輩に
「ありがとう。もう寝よう。また咳がキツくなるといけないから。」と横にさせて布団を被せる。
「へへっ…ありがとうございます。おやすみなさい。」
恥ずかしそうな後輩に返事の替わりに布団をとんとんした。
ここ数日は咳も出ていないみたいだし、元気そうに馬に乗り凛音と速さを競っているのを見て、安心した。俺は羅希も凛音も奇龍も雨梨もみんな大切で、かけがえのない存在と言うにはあまりにも大切すぎるこの4人とずっと一緒にいたい。今はそう強く願っていた。
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