第111話:後輩の焦り

羅希目線___

「雨梨!!」

 夕方ふらっと厩舎の近くの原っぱで寝転んだ馬の横で可愛い白い髪の後輩はどこかを見ていた。馬上から声をかけても反応しない。あまりにも静かで雨梨の髪が夕日で透けるものだから、雨梨の世界が見えた気がした。馬から降り、雨梨の横に行く。雨梨は少し驚いたようにこっちに振り向いた。

「雨梨。」

「先輩…。」

「班長から聞いた。今はめまい少し収まった?」

「薬効いてるから少しは…。」

 少し目が赤い。

「馬に乗ってきたの?」

「いや…僕の馬は今日は載せてくれなくて…。」

 俯き加減に言う雨梨の横で雨梨の馬は寄り添うかのように寝転んでいる。馬は騎手の気持ちを読むって言うけど、雨梨の馬は雨梨の体のこと気づいたんだなと見ると、馬がこちらを向いた。

「僕…次の班長なのに。」

「うん。」

「治らない病気ではないみたいです。でも…僕は前もこんなことがあって、放置してたから3ヶ月かかると。」

 3ヶ月後、もう班長として動いている時期だ。

「大丈夫、なんとかなるよ。今は治すことに専念する時でしょ?」

「僕は…研究職に行ったほうがいいと思いますか?」

「急にどうしたの?」

 雨梨との会話がこんなに上手く噛み合わないのは初めてだ。

「僕、ラボで新しい兵器の開発をするように言われてて、でも僕にはその兵器は諸刃の剣だと思う。」

「だから作れないって言ったの?」

 頷き、遠くを見る。

「僕は…何も出来ない。」

「何言ってるのよ…。」

「僕は、ただ、必要とされたからここにいる。」

「うん。」

「だから、必要とされているのに断れば…僕はここに居られない。」

「そんなこと…。」

「今の僕はどうやれば…ここにいていいですか?」

「はぁ…何も出来なくともいていいに決まってるじゃない。」

 なんでと言わんばかりに見上げてくる雨梨に

「てか、雨梨どっかに行かれたら寂しいじゃない。それに、いつか役に立てればいいんじゃない?今は別にそんな必要もないわよ。」

 うずくまり声も上げずに泣く雨梨を見て、ずっと大丈夫と背中をさすり続けていた。

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