第79話:脱走

羅希目線――

 弟と蒼桜くんの安否が分からない。私と雨梨は2人でいる。狙われているかもしれないということで厳戒態勢だ。でもこれは私達を守るためじゃなくて容疑をかけられているに等しい。味方に監禁される日が来るなんてね。

「瑞樹です。先輩、届けに来ました。」

 雨梨の相部屋の瑞樹くんだ。今食事は彼が運んでいる。ついでに外の情報ももらっている。

「進展はなさそうです…。」

「そうか…ありがとう。」

「ありがとね。」

 一礼をして帰っていった。静まり返った部屋に何か音が聞こえる。無言の私達は音に敏感になっていた。

 これは…雨梨の顔を見ると雨梨も気づいているようだ。

「先輩。」

「うん。玄だね。」

 モールス信号みたく大和のみの信号がある。でも、この厳戒態勢の中どうやって教官にバレずに送ってる?

 確認したという信号を送る前に透明な糸が降りてきた。これならカメラ的には映り込みにくく分からない…!糸に信号を返す。


 玄:りおん いない しっているか?

 雨梨:しらない りおん どうした?

 玄:りおん けがした。 ねね を うった。

 雨梨:うった? なんで?

 玄:わからない ねね うたれたと いっている。

 雨梨:りおん は そういうこ じゃない。

 玄:しってる。

 この信号でびっくりした。てっきり凛音の行方を血眼で探しているのかと思った。

 雨梨:りおん いるばしょ わからない。でも りおん かくれる ところ なんとなく わかる。

 玄:おしえてくれ。

 私が信号を打つ担当を交代した。

 羅希:そのまえに りおん を たすけたい なら わたしたち だして。あと そら きりゅう どうしてる?

 玄:わかった だけど ぐんに しられたら まずい だから このまま でてくぞ えんまく で いいか?

 羅希:おけ。

 その瞬間煙幕が出来、外でモニター観察していた人達が焦る声すら聞こえた。玄の腕に助けてもらい天井裏に逃げ込む。私達を探す声。それを聞こえぬふりをして飛び出す。

「今何時?」

「23時です。」

「凛音がいなくなったのは?」

「21:00です。」

「2時間…。」

「怪我はどこ?」

「腕です。2時間あれば走って繁華街に抜けてる可能性もあるのでそこら辺は捜索してます。黒いウィンドブレイカーを持って逃げたみたいなのでそれを着ているかもしれないです。早く見つけないと…。」

「猫音さんのお付でしょ?私はまだあなたを信じられないから。」

「今は凛音様のお付です。それに…。」

「それに?」

「凛音様は多分悪くなくて、今回は猫音様の策かなって…。あくまで憶測ですが。だから、先に見つけないと、猫音様中心で物事が動いてしまう。猫音様はわがままだけど、今まで悪いことはしなかった。なのに、今回は嫉妬して悪に手を染めようとしている。止めないといけないんです。」

 普段あまり離さない玄の真っ直ぐな心に疑いを持ってたことさえ恥ずかしく思えた。

「信じれないけど、とりあえず信じるよ。僕は君が嘘を言ってるように見えない。それにメリットは一致してるし。」

「そうだね。凛音なら多分人がめちゃくちゃ多いところに隠れるとおもうけど、黒のウィンドブレイカーがあるってことは、暗闇に溶けるつもりかも…!」

「なら住宅街。繁華街の逆方面だ。」

「だとしても、もう住宅街も探してるはずですよ。」

「路地の全てを見た?違うでしょ。凛音はね、意外と隠れるの上手なの。空気と一体化できるから。だから目の前にいても気づかないことがあるんだよ。」

「じゃあまだ住宅街に…!」

「可能性は高い。だから凛音探そう。」

 雨は強くなっていく。早く見つけないとまずいことになりそうだから。

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