第28話:置いていかれた者達


雨梨目線_____

「くっそ!!」と声を上げた奇龍がゴミ箱を蹴る。あのゴミ箱はかなり凹んだな…。それより僕はずっと気になっていることがある。

「蒼桜先輩…。」

「雨梨?」

「先輩は…犯人の目星がついているんじゃないのですか?」

「…羅希が気絶することは戦場では98%あり得ないと思う。1%は暴行によって、そして残りの1%は…トラウマだ。今回はトラウマだと思う。」

「ねえちゃん達を連れ去った犯人は誰なんですか!?」

「ごめん。それは俺にも…白軍なのははっきりしているんだが…俺が見たのは一瞬で…本当にごめん。」

「…報告書。調べてみました。」


 そこには記入者:九万里羅希と書かれている。

 内容は

 4名殉死。1名負傷。

 退却命令中に爆破に巻き込まれ九万里羅希が落馬。それを助けに桐谷班5名が引き返す。一年神咲は九万里を連れ先に退却するように班長から命令され、二名の退却中に四名爆発により殉死。敵は白いブレザーを着用していた故、白軍とみられる。


 そこには淡々とした文字列。戦場では正直よくある話。

「ヒントはさすがにないな…。白軍の連れ去った人らの行った先は?」

「あっちの方向です!」

「南西…。一応諜報部の知り合いに頼んで探してもらっています。」

「ありがとう。二人とも無事でいるんだぞ…。」

「雨梨。」

 上から声が降ってくる

「玄?」

「バカ(奇龍)が見た通りの方角に最新式の建物がある。白軍のものだと思う。ここから馬なら30分。そこにいると思われる。あと前に頼まれていた件もその建物の中に答えはありそうだ。」

「玄、ありがとう。」

「乗り込むのか?」

「多分。」

「当たり前だろ!仲間を助けられない奴が黒軍の戦闘業をやるわけにはいかねぇーだろ!?」

 奇龍…。

「おい、バカ。」

「なんだよ!?」

「がんばれよ。」

「うるせー!」

「雨梨、じゃあ仕事に戻るから。」

「うん。ありがとう。」

「じゃあ上に取り合ってくるよ。」

「僕も行きたいです。」

 蒼桜先輩の悩む表情。3年の一部の人、特に班長以上のクラスになると直訴はし易い。でも2年の僕は厳しいかな。

「じゃあ奇龍ごめんけどそこにいてね。雨梨行こう。」


「なんで連れて行ってくれたのですか…?」

「それは…俺が今冷静じゃないからかな。俺もあの戦いは正直思い出したくないし、辛い。羅希は今辛いはず。凛音もいきなり攫われて怖いはず。だから早く助けないといけない。でもあの戦いの当時者で凛音の兄貴分の俺は今冷静になれないんだ。」

 蒼桜先輩も不安だよね。

 部屋の前、ここが司令部の部隊長の部屋。

「失礼します!!」

「失礼します。」

「騎馬兵団神咲班3年神咲蒼桜と2年百鬼雨梨です。」

「神咲…さらわれた件か?」

「うん。建物の目星がついているから何人かで向かわせて欲しい。」

「それは正直無理だ。この戦況で人出を割くことは避けないといけなくてな。」

「それは見殺しにしろということ?」

「そのうち助けに行くから今ではない。」

「そのうちっていつ?」

「さーな。時期が来ればという話だ。」

 蒼桜先輩のこぶしに力が入るのが見えた。

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