第21話:別名
雨梨目線__
この台詞を言ったら羅希先輩はそう簡単に止められない。
『鬼の九万里』
これは誰が名付けたのか知らないけど白軍にもきっと赤軍にも伝わってしまった羅希先輩の異名。羅希先輩は案の定返り血だらけのまま敵を一気に冥土へ送る。
「ぐわぁぁぁっっ!」
断末魔の叫びの中軽く笑顔の羅希先輩を見たら、確かに異名をつけられるのもわかる気がする。敵じゃなくて良かった。つくづくそう思う。
「あいつは鬼の九万里だ!一旦退却!」白軍が退却したところを追いかける黒軍。
「女の子相手に背中向はけるとか、男が廃るよ!」といい走り遅れた人を惨殺していく。攻撃を仕掛けては引くこれの繰り返しすぎて、
「攻めるか逃げるかどっちかにしろよ!!!」と奇龍がイラつき、退路を塞ごうと手榴弾を三個投げしだす。何か変だ…。森の中に入っていく。僕も手を止めずにバズーカを打ってるけど…。
「罠…?」
僕と奇龍の武器の底をつかせ、狭いところで挟み撃ちか!他班と道を分けて一気に一班ずつ全滅させる気か!
「っ!!」
「やべっ!」
「思った以上に誘いこまれてるけど、ここならこっちがあんたらを全滅させちゃうけどいいの?」三人も気がついたけど他班は気づかないみたい。
「退却!他班と合流!」
早めに気づいた神咲班は森から抜け出し他班に合流しようとするが…。
「うわぁぁっ!」「ぐはっ!」
「騎馬隊一旦引け!」という騎馬隊の隊長の指令に、副隊長が高い音の笛を吹く。
「追いかけろ!」と、この機会を逃すまいと白軍が攻めてくる。途中まで引くが沼地化した足元にすくわれ何人か犠牲になっている。
すると
「先輩方っ!!!」
「凛音!!」
奇龍の手榴弾と僕の弾。三年2人に小型銃。よくこれだけここまで持ってきたな…。
「今の状況は?」
「とりあえず相手の罠にはまって被害が出たかな。」
「羅希先輩っ!血がっ!」
「大丈夫。返り血だから。」とオロオロした凛音にきっぱり言う。
「崩れ出したか。」と遠くを見つめる蒼桜先輩の眉間にはしわがよっている。
「一度逃げ腰になった軍は立て直すのに時間がかかりすぎる…。」
「退却するよ。先頭2年、その後ろに凛音、後ろは3年で行くぞ!」
「蒼桜にい。私まだ伝達が…。私の担当はここが最後だけど、もしものこと考えたら…。」
「凛音ちゃん!担当の班は終わったけど…」
凛音と同じ伝達係の子だ。
「私も担当は終わったよ!」
「じゃあ凛音退却しようぜ!」と言われ馬を走らす。
「っっ!!」後ろから聞こえる爆発音に反応している。怖いんだ…。
「凛音…大丈夫だよ。」
「はい…!」震える声でしっかりと返事をする。
なんとか陣地に戻り凛音は司令塔に報告に上がる。班員の確認をして騎馬隊の部隊長に報告に上がる蒼桜先輩。
残された僕らは…。
「これは騎馬隊も一般部隊(歩兵隊)も厳しいよな…」
「まぁあの土ではね。馬が脚をとられて動きづらいし。でも同じ状況下でなんで白軍は動けるんだろうね。」
すると
「雨梨。」
馬を休めてる木の上から声がする。
「
「雨梨、電波障害を起こしてる機械を発見したが、機械の構造が分からない。とりあえず持って来たが、どうすればいい?」
「貸して」
「さすが諜報部だな。なんですぐに見つかるんだよー。」
「お前には教えるか。バカ。」
「はぁっ!?」そんな二人を放置して箱を見る。こんなコンパクトな箱に電波妨害されたのか…。なんだこれ…。
「ブラックボックス…。」
「お前にも分解不可能か?」
「うん。ごめん…。」
「貸せよ!」
ひょいっと僕の手の箱を奇龍が取り上げた。
「お前に貸したところで無理だろ?バカが。」
「要はこれがあるから戦の伝達ができない…っと。」
まさか…。
遠くに投げたブラックボックスに手榴弾をぶつける。
あーあ。
「お前は本当にバカかっ!」玄の声と羅希先輩の苦笑いに対して、
「だってこれさえなければ伝達スムーズだろ?」って言っちゃうあたりが奇龍らしくて。
「これがもし分解できたら白軍の技術レベルも分かるだろ!」
「あっ…!」
気付かなくて申し訳ない顔をするのも奇龍らしくて。
「…ふっ。いいよ奇龍。」
「ごめん!雨梨!」
「今は奇龍の策の方が良かったかもね…。未来の事も大事だけど今のこの状況を打開しないと。あと玄、ちょっと探してほしいものがあるんだけど。」
「なんだ?」玄に耳打ちする。玄は分かったと一言言い去って行った。
「奇龍やっぱ羅希先輩の弟だね。」
「こんなバカな弟産んだ覚えないけどね。」
「俺も姉ちゃんに産んでもらった記憶はないんだけどー!」
奇龍も羅希先輩みたいに異名がある。
『小さな爆破屋』
まぁさっきの行動も小さな爆破屋の仕業だと思ったらなんか笑ってしまったんだけどね。二人がケンカしてるのを見ると正直『鬼の九万里』も『小さな爆破屋』も全然違って、ただの高校生の姉弟ケンカにしか見えない。
「雨梨ぃー!」
「そーやっていつも雨梨に絡んで。」
「ん?何してるの?」
「班長!」
そういえば神咲班の2・3年はみんな異名を持っている。九万里姉弟は他軍まで有名だけど、他のみんなはふざけて呼ぶ時に使ったりするぐらいの軽いもの…。
異名というよりはコードネームに近いかもしれない例えば蒼桜先輩は、
『天然ヒーロー』
理由は昔羅希先輩が助けてもらったことがあるからヒーローらしい。凛音を助けたっていうこともあるし蒼桜先輩は本物のヒーローだと思う。
「雨梨?なんでぼーっとしているんだ?」
「…特には。」
「間が空いたぜ。馬の上の神童さんよ!」
そう。
『馬の上の神童』
僕は神咲班と一部の人以外にはこの名前で呼ばれるのが苦手だ。
「そういえば私たちはコードネームがあるけどさぁー凛音はなんかないから作らない?」
「凛音…凛音…。」
凛音かぁ…。
「『眠り姫』は?」とぽそっと蒼桜先輩がつぶやく。
「可愛い!」羅希先輩も気に入ったぽい。
「えーっ!俺が考えたかったのにぃ!」
「奇龍が作ったら変なのになる。」
「はー!?ならねぇーよっ!」
ワイワイしてるところに
「神咲!」
指令塔の人だ。
「どうした?」
「また出陣だ、」
「!?でもまた犠牲が出ることになるよ!」
「騎馬隊で伝達の係りになってた者も含めて総攻撃をかけるという司令だ。」
「っ!!」
「神咲班以下五名!準備してくれ!」
「「はいっ!!」」
「凛音呼んできます!」
「じゃあ凛音の馬出してくるよ。凛音の馬俺じゃないとおとなしく従ってくれないから。」
羅希先輩と二人きり…。
「凛音も出るんだね…。」
羅希先輩の表情はあの反対した時と同じ顔。
「怖いですか?」
「ははっ…そうかもね。」
「羅希先輩…。」
「でも例え私が戦争で命を落とそうが地獄に落ちようが別に構わないよ。でも、辛い思いだけは…。私と同じ経験だけはみんなにはさせたくないんだ。だからがんばるね。」
戦争前になるといつも羅希先輩は悲しそうな笑顔を浮かべる。
「僕も羅希先輩含めてみんなにはなるべく辛い思いをしてほしくない。だからみんなで羅希先輩が暴走したら止めます。」羅希先輩は寂しそうに笑い、そっと
「ありがとう」と言った。
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