第一章 無邪気な子供たち


シルベルン領の端。小さいながらも川が流れ、その川に橋がかかり周りには山と森がある。エレンたちのたまり場だ。川付近には平原が広がっていてそこに一人子供らしからぬ体つきの少年がいた。




『あれ俺が一番乗りか、先に準備運動しておくか』


そうして体をほぐしていくアウゼス。けがをしたりしないように毎回試合前には準備運動をしている。




(後で言い訳したくないし準備を怠って言い訳するなんて最高にダサいしな。なにより親父に怒られる。)




そう心の中で思いながら全身をほぐしていく。体が暖まり始めたら木剣も振っていく。頭の上まで上げた剣を垂直に振り下ろす。胸の前に剣を構え左斜め上から右斜め上からなど様々な方向に剣を振っていく。剣を腰より下に構え振り上げる。どんな状況にも対応できるように頭の中でシュミレーションしながら、剣を目的地まで運ぶことを繰り返す。




アウゼスの父親ウルヴァーナはシルヴァの右腕的存在で国内有数の槍使いだ。[螺旋槍のウルヴァーナ]という二つ名で呼ばれ剣と盾を使うものの中で特に有名だ。何故かというとその二つ名の通り槍を回転させるのだがその槍のスピードと一撃の威力が凄まじく、剣で受ければ剣が折れ盾で受ければ盾が貫かれるからだ。避けるという選択肢もあるがウルヴァーナの固有戦技【螺旋風獣爪】の前にはそれも意味をなさない。とてつもない速度で槍を回転させることにより槍に風を纏わせ、敵が槍を避けた瞬間風が膨張し獣の爪のような形を成し敵に追い打ちにかけるという戦技だ。とっさに槍を避け体勢が崩れているときに攻撃を受けて完全に防ぎきるなど、ほぼ不可能といってもいい。槍を防ぎ風を止めるのが一番良い方法なのだが、それをできる者は数少ない。




『アウゼスおはよー』


『アウゼスおはよー』




駆け足で少年と少女がアウゼスの近づいていく。ゼルとアリスだ。二人とも杖を持っているため少し動きは遅い。




『二人ともおはよう』


さすがに二人を無視してまで準備運動をする気はないのか、少し肩で息をしながらも挨拶を返し準備運動をやめる。まぁ前にあいさつを無視して準備運動をし続けたら回復魔法をかけてもらえなかったからなのだが。




『みんなーおはよう』


少し疲れた様子でエレンがやってきた。




『遅いぞーエレン』


『エレンおはよー』


『ふふエレン今日も顔が疲れてるね』




早く戦いたいという気持ちが現れるアウゼス、普通にあいさつを交わすアリス、エレンの疲れた顔がツボなのか少し笑うゼルであった。

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