第一章 王子と竜騎士の試合

太陽がちょうど真上に見えるその時に剣が打ち合う音が響いていた。ときに甲高く時に剣が風を切るその音とは無縁と思われるようなきれいな庭に、豪華な鎧に身を包み強者たりえる風格を身にまとった男と鎧を身に着けず剣のみを持った異性を全員虜とりこにしてしまうような美形の少年がいた。




『王子、やはり木剣で試合をしましょう。万が一何かあれば王妃様に叱られてしまいます』


『木剣などでは意味がないのだ。それにお前がきちんと当たる前に止めればいいだけだ。そんな弱気でどうする守国十席の名が泣くぞ』




『そういうことではないのですよ全く、国王様に叱ってはもらえませんかねー』


そういって意味ありげに男は天を仰ぐ。男の気持ちもわからなくはない。男が現在稽古をつけているのは王子、怪我などした日には王宮中が騒ぐほどの大問題になってしまう。そんな相手に稽古をつけるなど好き好んで誰がやるものか。王子の稽古を任されているほどの実力者ということでもあるが、残念なことに男はそうは受け取らず王子の稽古という大役の責任に悩み続けていた。




『あの父上が叱るわけないのだろう、俺と同じように試合をしていたあの父が』


だがこの少年は男の悩みなど気にするどころか楽しんでいた。




『全くこの国の王族はどこかおかしいのですよ』


『よし不敬罪でお前をひっ捕らえてやる。そして死ぬまで俺に剣を教えるんだ』




『勘弁してください、途中から打ち合うことすらままならなくなるというのに』


『はは、才能を認めてくれるのはうれしいがほめたところでお前の仕えるものが頭がおかしいのは変わらんぞ』




『自覚があるなら直してください、そこもう少し踏み込んでください』


『こうか?』




先ほどから普通に会話をしているが、あくまで試合中なのだ。このレベルの試合をしながらおしゃべりできるのはひとえにこの二人が才能があるからに他ならない。しかも片方は王子なのだ。国の宝、次期国王が才能があるとはいえこんな危ない試合をやるのが認められているこの国や王族はやはりどこかおかしい。




『くらえ崩撃!!』


魔言を唱えた瞬間、体に魔力が巡り剣が重さをなくしたかのようなスピードで振るわれる。




『その程度の速度ではあたりません、それに発動前の力みで発動がばれます。もう少し自然に』


そんなスピードの剣を難なく剣で止める男、しかも体に力や魔力を込めることもなくだ。砂埃は立たず足跡が地面に残っている様子はない。さすがは王子の稽古役に選ばれた男だというしかないだろう。




崩撃とは【中級剣技】のスキルの一つで、使うものによっては切られたことすら気づけない音速を剣を可能にするスキルだ。威力に補正はないものの速度に補正がかかる。だが速度に補正がかかる分生半可なものが使えば、そのスピードを制御しきれずとても単調な攻撃になってしまうだろう。




『じゃあこれはどうだ!!』


先程とは比べ物にならないほどの、魔力の波動が少年から溢れ出す。筋繊維に力が伝わり体が悲鳴を上げる。




剣が滑らかに空を切っていく、五回にも及ぶ崩撃が男を襲う。


シュンシュンシュンシュンカキン!!


独特な剣の風切り音と剣を止めたであろう音が響いた。




『その年で崩撃五連続発動とは、さすがです。』




『何を言っている、完全に見切った上に止めているだろうが』


少年は悔しげな表情でそう言った。




『それとこれとはまた別問題です。これでも守国十席ですので』


『ふ、それもそうか続きはまた明日にしよう』




『わかりました』

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