第27話 “要塞水都フィル”

“ピザン”を出発してからの旅は特にこれと言った問題が無く進んだ。

 受注する依頼はこれまでと変わりなく、進路から多少逸れる程度以内で達成できるもの。


“ピザン”を出発してから三日でその隣町の“ピノ”。

 そこで一泊した後はさらに隣町の“ウル”を抜けて北東部の大都市“副都カエ”に着いたのが“ピノ”出発の十二日後。

“副都カエ”近くにある“カニア湖”を迂回するため北上して”ニキ”を経由してその西の”テア”。

 そこから、帝国との国境もある“ティル平原”の西端にある街道を北上して”ヌイ”を経由してさらに北上して当初の目的地であった”要塞水都”フィルにたどり着いた。

 王都出発の実に六十八日目昼のことであった。





 僕たちの目前にある城壁は王都と遜色ないほどの大きさと威厳を持っていた。

 かなり幅が広い堀が設けられていて、街に渡る橋の前に検問所が置かれている。

 この街は隣国ミトリア商業国に入るための最後の街、密輸などの可能性もあるので他の街よりも検問は少し厳しくなっている。

 ”要塞水都フィル”へ入ることが出来たのは約一時間後だった。


「やっと着いた~!

 って、凄い!」


「おお、確かにこれは凄いな」


 僕と華奈は街の規模に驚き、リリィは誇らしげに胸を張っていた。

 目前に見えたのは綺麗に区画整備された街並みで、中心に向かうにつれてどんどん上るようになっている。

 街の中心に領主の館があり、そこまでに至る街中には五つの城壁が存在していた。


 この街は名前にある通り要塞としての機能が備わる。

 ここから見える城壁の外側にはそれぞれ堀が設けられて完全に区画分けされているのだ。

 中央が領主の館、その外側が貴族街。

 そこから、商店や商人の屋敷が並ぶ商業区、ギルドや宿屋などが存在する冒険者区、街の住人が住む居住区となる。

 そして、居住区内には城壁と堀がさらに存在しているので居住区は二か所にある。


 また、ここからはリリィに教わった王国の機密の話だ。

 この街内の堀のすべてには魔道具が仕込まれている。

 魔道具は蓄積された魔力で大量の水を発生させるもので、街中に攻め入れられた時に使用し水流を使って敵を排除する。

 また、もう一つ魔道具があり、そちらは蓄積された魔力で近くにある海から水を引き上げてそれを流すこともできるようにもなっているので実質水を流すのは二回出来る。

 また、貴族街の地下に多層構造の大規模なシェルターが存在していて水を流す際には市民に開放するそうだ。


 そして水都と呼ばれる理由は街中に巡らされた堀の他にもある。

 ここの北門を抜けた先にはフィル漁港と言う港がある。

 そこでは、王国の海軍の駐屯地がある他にも、許可をとった漁師たちが毎日沖に出て海産物を取って帰ってくる。

 フィルの街に接続する形で市場が形成されており、そこにも海に面するところ以外は城壁が築かれているので防御に抜かりはない。

 街の外周にあった堀も海まで接続されているのだ。

 出入りはフィルの街に直接入れるフィル北門の他に外へ出られる西門と東門の二か所。

 市場には漁師が住む居住区と魚市場があり、市場では毎日朝新鮮な魚介類や魚介系の魔物が並べられ活気が見られる。


「取りあえずギルドだね」


「いつも通りか~」


「まあ、そうだけど今回は別の目的もあるんだ」


 今回は普段と同じように依頼の報告のためにギルドに向かうがそれだけでは無い。

 ここは国境の街であるため隣国へ出ていく際の出国申請もおこなえる。

 国境にも検問所があるが、そこを通るには事前に最寄りの街で申請をして許可証を発行してもらわなければ通過は出来ない。

 その上、一応荷物検査もある。

 一応と言うのは<アイテムボックス>が存在するので確実に密輸を防ぐことができないという理由からだ。


 そんな説明をしながら一つ目の堀の橋にたどり着いた。

 一つ目の橋は単に居住区と居住区を繋ぐためだけの物なのでほとんど警備は無い。

 橋の上から下を覗き込んでみれば五メートルほど下には水が張られ、透き通って底まで見える。

 水面までは五メートルだがそこからさらに水深が十メートルほどある。

 堀の壁は石が積まれて作られていたが、凹凸が綺麗に磨かれており足を掛ける場所は無く落ちたら自力で登るのは難しいと思う仕上がりだ、

 

「うわ! 深っ!」


「あ、ナギ様!

 水の中に何かいます」


 リリィが水の中で体をうねらせながら悠々と泳いでいる生物を発見した。

 深い青色をした体表に蛇のような体。


「あれは海蛇って言う魔物だね。

 水中で生活しててランクはCだったかな」


 どこかで聞いた話だが、この水蛇たちが街の魔法士団のテイムしてる魔物だそうだ。

 平時は堀の巡回をして落とし物とか落ちた人の救助や不審者の排除をして、戦時に攻め入れられた時は敵の兵士を攻撃する。

 街に水を流す魔道具と合わせるとけっこう効果的だと思う。


「噂だと団長がSランクのヴァイアサンをテイムしてるらしいよ。

 それに合わせて、領主の館の外周の堀も深くて幅広になってるらしい」


「へ? 海にいるでっかい魔物のリヴァイアサン?」


「多分それであってると思う。

 <適応体>で環境に合わせて体のサイズを変えられるはずだし」


 リヴァイアサンという魔物は基本的に外洋の水深深くに存在し、付近の海洋を支配する魔物だ。

 周囲の環境が広々としている影響もあってか体長は最大で百メートルくらいまで成長した記録がある。

 基本的にこちらが刺激しなければ何もしてこない無害な魔物で平時は海底にある魔力スポットにとどまっているが、外部からの刺激にけっこう敏感に反応し暴れることも多々あるそうだ。

 特徴として、外見はほとんど蛇と変わらないが鱗はひし形でけっこう尖っていて青いクリスタルのような輝きを放つため水中で泳ぐ姿は大変美しい。

 攻撃方法は、噛みつきや体当たりだけでなく成長した個体は天魔法や天候魔法を使うようにもなる。

 また、<適応体>と言う周囲の環境に合わせて体を変質させるスキルを持ち、例えば体を小さくしたり、水温が大きく変わってもそれに適応できるようになるものだ。


「華奈さん、リヴァイアサンは本当です。

 前にこの街に来た時に領主のフィル公爵に見せてもらいました」


 と、ここでリリィからの裏付けがなされた。

 数年前に兄と一緒にこの街を訪れた時に領主の館で見せてもらったそうだ。


 その話を聞いた華奈はまだリヴァイアサンを見たことが無いため、興奮してリリィへの質問攻めが始まってしまった。

 ただ、リリィもそれが満更でも無いようで華奈の質問はしっかりと答え、足りなければ僕が捕捉を入れるといった形で話はワイワイと盛り上がっていった。

 そんな話をしながら僕たちはギルドへと向かうのを再開した。

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