第135話 魔族の正体は宇宙人じゃなかったのか?
「ところで、ヴェガが挨拶とやらをやっている間に、わたくしはあなたに少々お話をおうかがいしたいのですが」
そう言ってナツカゼは縛られたままの魔族梅風軒に歩み寄った。
「あなた、随分と素敵な格好で緊縛されていますのね。ロープが体のあちこちに食い込んで、特に大きな胸の部分は俗に言う乳袋状態になっていますし。今のお気持ちはいかがかしら?」
相変わらず、魔族に対しても嫌味ったらしいお嬢様口調でナツカゼは話しかける。
だが、魔族は黙ったまま口を開かない。体はトラロープで亀の甲羅縛りされているけど、口は猿ぐつわもギャグボールも噛まされていない。喋ろうと思えば自由に喋れるはずだ。
「あら、お黙りですか。それとも、ここにはまだ旭川の高校の方々がいらっしゃるから、喋りにくいということでしょうか? まあよろしいでしょう。東神楽に帰ってから、しっかりお話していただきますので。時間はたっぷりありますのよ」
魔族は黙して語らない。
「あなたから必要な情報を聞き出したら、その後のあなたの処遇が必要ということになります。魔族などという、人間と敵対する存在を容認などできるはずはありません。魔族は、人類の繁栄のために、浄化する必要があります」
おいおいおいおい。
もう随分慣れっこになってしまったとはいえ、今またなんかすごいワードが登場したな。
浄化って言ったな。ナツカゼの奴。
だんだん言っている世界が、ナチスがユダヤ人を浄化するとか、そういう話に近づいてきているんだけど。あるいは白人が黒人をホワイトウォッシュするみたいな。
まあ、大概クロハも魔族に対しては似たようなことばかり言っていたような気もするので、こちらの世界における人間の魔族に対するヘイト感情って、こういうものなのかもしれない。そりゃまあ、魔族に国土を蹂躙されて占領されているという事実がある以上、ある程度憎しみを抱くのは仕方ないと差し引く必要はあるけど。
だからといって、そういった差別的な物言いに共感はできないなあ。それに、共感しちゃいけない気がする。人間として最後の尊厳のラインを踏み越えてしまっているような気がするんだ。
「あなた、こうしておとなしく縛られたままで何もしていないってことは、浄化の儀式によって魔力はほぼゼロに近いところまで消されてしまっているのでしょうね。まあ、旭川の高校の方々が行ったこととはいえ、そちらはグッジョブでしたわ」
あ、あれ。もしかして俺もその浄化に加担しちゃっているのか。いやでも俺は土俵入りをやって、魔族の梅風軒さんをここに呼び寄せただけだぞ。魔封波と土俵の聖域の力を使って魔力を封印したのはクロハだ。
「でも、これだけで魔族をリリースしようとしていたのは不十分ですわね。やはり浄化の最終段階として、魔族を人間に転換させる必要がありますので、東神楽に連れ帰って実行しますわ」
「えっ! 人間への転換? そんなことができるの?」
驚きの声を上げたのはクロハだった。魔族は黙ったままだ。
いや、俺も少なからず驚いたわ。
魔族を人間にする?
んなことできるのか?
そりゃなんだよ。黒人を白人にする、みたいな感じか? 外科手術で肌を移植して白くするのか? そりゃー、絵の中なら、黒人キャラであっても肌を黒く描かないホワイトウォッシュという手を使えばできなくはないが、それだって問題になっているだろう。
「あらあら。驚くようなことでもないような気がしますけどね。古来より、魔族というのは、人間が悪に染まって闇落ちした結果の姿、とされているじゃないですか。人間が魔族に転換するのなら、魔族を人間に転換させることも可能。簡単な理屈です」
なんか、魔族の由来の時点で審議が必要な気がするぞ。
確かに、ファンタジー小説やマンガに登場する設定では、人間が暗黒マターに染まって魔族に堕落する、的なものが多く存在するような感じはする。
でも、俺が子どもの頃に見ていたアニメでは、魔貫光殺砲を撃つ魔族の正体は宇宙人だったぞ。
だから、魔族だからといって、必ずしも人間との相関関係があるとは限らないんじゃないかな。
こちらの世界では、魔族は魑魅魍魎の発展形、的なことをさっきクロハが言っていなかっただろうか。山や川に発生する妖怪。だから川に放流して返すんだって言っていたはずだろう。
でもまあ、冷静に考えれば、そのクロハの見解が正しいという保証もどこにも無いんだよな。人間が闇落ちしたら魔族化する、という可能性だってあるかも。だって実際こちらの世界では人間も魔法を使うことができるんだし、魔族も使うことができる。魔族は人間から変化したものだ、と言われたとしても、うなずいてしまうかもしれない。
「あなたは監督さんですか。男性が相撲部監督を務めるって珍しいですね。握手してもらっていいですか?」
いつの間にか、俺の目の前にはキラキラネームの木村琴座さんがやって来ていて、俺がいいと言う間もなく勝手に俺の右手を取って、向こうは両手で握手している。
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