第119話 カップラーメンは土俵の味


 だけどいざ土俵を作るとなると、また同じ問題の繰り返しじゃないのかな。敵である魔族が、作らせまいと妨害してくることは予想される。


 どうなるというのだろうか?


「旭川はラーメンの町。だから製麺工場があってもおかしくない。そこで大量に小麦粉を集めて麺を製造する。そこまでなら、何も不自然な点は無いわ。我々魔族も、ただの製麺工場だと思いこんでしまうところだったわ。でもそこで、人間の側から密告者が出現したのよ」


「「なっ、、、、、、」」


 俺とクロハの驚愕の声がハーモニーを奏でた。


「ふっ。そんなところで驚くなんて、坊やとお嬢ちゃんだから、考えが浅くて甘いわね。二つの勢力が敵対して、どちらかが滅びるまで戦い続けるとなると、必ず裏切り者として内通者が出てくる。当たり前のことでしょ」


 ここで爆弾発言出ちゃったよ。言うなれば粉塵爆発発言とでも言うべきか。


 内通者か。その可能性は考えていなかった。考えたくもなかった。俺だけではなくクロハも同じ思いだろう。人間と魔族の差異を超えて内通して、どうするっていうのだろうか。


「そ、そんなはずは無いわ。だって、仮に魔族が完全勝利して日本人を完全に撃滅したとして、魔族への内通者がどうするっていうのよ。魔族だけが生き残っている中で、人間に居場所なんか無いのに。どうせ戦っている最中だけは便利に利用されて、戦いが魔族の勝利で終わったら簡単に捨てられて殺されるだけよ。どうして内通者は、そんな単純なことが分からないのよ」


「内通者はね、自分は賢いつもりなのよ。そして、この戦い、人間の方が圧倒的に不利だと悟っている。だからこそ、日本人の絶滅は避けられない。それが実現してしまう前に、魔族に尻尾を振っておいて、いざという時に自分だけでも生き残ろうと思っているのよ。賢いというよりは、浅ましいというのが私の感想ね」


 俺とクロハは無言で頷いた。珍しく、ここだけに関しては魔族の美女と俺とクロハの意見が合致した。内通者の神経の浅ましさには呆れるばかりだ。


「でも、我々魔族としては、利用できるものは、利用できる内に利用しておく合理性を尊ぶわ。内通者からの情報で、都市艦旭川の地下製麺工場で、インスタントカップラーメン土俵を製造していることを把握したのよ」


「インスタントカップラーメン土俵???」


 すごいワードが出てきて、俺びっくりですわ。


「地下製麺工場では、旭川市内のラーメン店に卸す麺を製造しているのはもちろんだけど、それ以外にも、インスタントカップラーメン用の麺も製造しているのよ」


 へー、そうなんだ。それは知らなかったけど、まあ、作っていたとしても全く不自然ではない。製麺工場なんだからな。


「ところが、そのカップ麺が、お湯を注いだらラーメンになるのではなく、土俵になるのよ」


「は? 俺が思うに、それは、理論の飛躍じゃないっすかね?」


 カップ麺にお湯を注いだら土俵になるって、どういう筋道だよ。あ、魔法か? 


 この世界における魔法の位置づけというか、力というか、よく分からないぞな。


 何ができて、何ができないんだ?


「カップラーメンの中に入っている乾燥麺の塊の形を考えてみれば分かるでしょ? あれって、土俵を逆さにして入れているような形をしているでしょ」


 そうだろうか?


 カップラーメンの形を土俵と似ているかどうかなんて観点で考えたことは無かった。


「カップラーメンに擬態して大量に日本国内に持ち込み、それを一斉にお湯を注いで戻して土俵にする。そういう作戦だったようね」


「いやいや、なんでカップラーメンにお湯を注いだだけで、ラーメンではなく土俵ができるんだよ?」


 飛躍しすぎだろう。


「増えるわかめちゃんを麺に練り込んであるようね。お湯を入れたら水分を吸って大幅に膨張するようになっているようね。まあ、苦肉の策とはいえ、愚かで卑小な人間にしては頑張ってよく考えた方よね」


 まあ内陸の旭川とはいえ、今は海上の都市艦だ。海産物は入手し易いだろう。


 しかし、インスタントラーメンと増えるわかめちゃんの合わせ技一本か。よく考えたというよりも、よくそんな突飛な発想が思いついたよ。まあ、単純な物理学的には不可能だろうから、どこかにどの程度か知らんけど魔法はかかわっているのだろう。でも、魔法絡みとはいえ、カップラーメンに擬態してインスタント土俵を持ち込むというのは、突き抜けたアイディアではある。


 だからこそ、それがどうして魔族に漏洩しているんだ、という話だ。


「でも、人間はつくづく愚かよね。ネタが分かってしまえば、さほど脅威ではないわ。というわけで、地下製麺工場と一緒に、製造、備蓄していたインスタントカップラーメン土俵も燃やし尽くしてあげたわよ。よく燃えたようで、いい気味だわ」


 本当にそんな物が製造されていたというのなら、実際にお湯を注いで土俵になる様子を一度見てみたかったな。燃やされずに残っているインスタントカップラーメン土俵って、探してみれば一個くらいどこかにあるんじゃないかな。


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