第95話 国土は無くても精神論は失わない国
たしか、戦車擬人化アニメでは、生徒の自主性を育むためとかなんとかという理由で、でっかい航空母艦を更に巨大化させて街を載せましたみたいな学園艦があったはず。……だけど、艦は維持費が莫大なので、これといった成果の出ていない学校は廃校になってしまう宿命だった。
都市艦なんて、バカデカイ代物を作ってしまったら、その建造費も莫大だっただろうけど、維持費はどうなるんだ?
たとえば、普通に国土がある国であっても、道路とか、河川、森林など、お金をかけて維持しているからこそ、安心安全に暮らすことができるのだ。畑や水田にしても土地改良工事などが実施されている。
「都市が巨大な船だから、維持費も当然多くかかるのよね。だから消費税が900パーセントで、それでも足りないので増税が検討されているんだけど」
いやクロハ、何を冷静に言っているんだよ。
、やむにやまれぬ事情だってことは分かるけど、そりゃもう無謀だろう。税率900パーセントで、更にアップ予定とか。普通の一般市民が生きて行ける環境じゃないだろう。その都市艦というシステム、早晩限界が来て破綻するんじゃないかな。
魔族に国土を占領されたのはヤバいけど、だったら早く奪還するための手段を講ずるべきじゃないかな。いたずらに時間ばかり経過していくようじゃ、都市艦なんてもの自体が重荷になって国民が疲弊して行くだけだろう。
それにしても、都市艦か……
今にして思えば、なんか、ゆらーりゆらぁりと揺れているような感覚を感じることが幾度かあったよな。たとえ一つの都市レベルという巨大な船であっても、船であって大海に浮いている以上は、揺れることだってあるだろう。
本来内陸都市であるはずの旭川なのに妙に水産加工会社が多いのも、今更ながらの納得だ。いかに巨大な船とはいえ、他の地域と海を隔てて断絶しているのだ。市内だけでの自給自足が大原則になるだろうし、周囲を海に囲まれているからには最大の産業が漁業になるのは自然の流れだ。
学校の地下に製麺工場というのも、その取り合わせはどうかという部分はあるにせよ、限られたスペースを有効に活用しなければならないという観点からいうと、地下に工場が設置されるのは妥当という感じもする。
それにしても、とんでもない異世界に飛ばされてしまったものだわ、改めて。
だって、魔族との戦いに日本人はあっさりと敗れて国土を追い出されて海の上に船を浮かべて難民生活をしています、という軽薄なライトノベルのタイトルみたいな展開が、現実に起きているというのだから。……あるいは史実のポーランドも似たようなもんかもしれんな。
「話は戻るけど、こういうふうに日本人と魔族が対立しているという環境で、地下の製麺工場で爆発事故。どう考えても敵である魔族のスパイが入り込んでいて、破壊工作を行った、とみるべきでしょうね」
そりゃ、愛する祖国、故郷を理不尽に奪われてしまったら、当然怒るし、不倶戴天の敵として魔族を許せないだろうな。
でもな。腑に落ちない部分があるんだ。
今、聞いた話からすると、日本人の側の状況は絶望的だ。ここからの逆転勝利を飾って魔族を蹂躙するのは無理じゃないかな。普通なら諦めるところを、日本人は祖国奪還を諦めていない模様なのだ。意味ワカランぞ。単なる悪あがきじゃないか。
そしてもう一つ。奇妙な点があることに俺は気づいていた。
もう状況は魔族の完勝だ。日本人たちは都市艦を建造してそこに避難したらしいけど、莫大な維持費がかかるので、永遠にそこで海の上にぷかぷか浮いているわけにも行くまい。そのうち勝手に自滅するのが目に見えている。
つまり、黙っていても魔族の勝ちは約束されているのだ。
にもかかわらず、魔族は破壊工作を仕掛けてきた。
おかしいじゃないか。
何もしなくても相手が自滅するのを待っていればいいのに、なぜリスクを犯してまで破壊工作に出向いてきた?
つまり魔族は、この都市艦旭川で行われていることに対して危機感を抱いたからこそ、こちらの妨害という手段に訴えてきたのだ。
もしかして、日本人達は圧倒的優勢である魔族に対してただ単に手を拱いて見てきただけじゃないのだろう。
「日本人の側に、何か秘策があるんだろう。状況を打開し、魔族たちを一網打尽にできるような何かが」
日本は優秀な国だ。
毎年のようにノーベル賞受賞者を輩出していたし、2020年開催のオリンピック・パラリンピック大会を東京に招致することに成功した。その東京オリンピックにしても、スタッフの大部分をボランティアで賄うことによって、経費の支出を最低限に抑えることが出来た。これは日本が優秀だからだ。
夏の暑さ対策も、打ち水だとか、江戸時代の傘みたいのを頭に直接かぶるだとか、周辺の道路脇に朝顔を植えるとか、風鈴を設置するだとか、有効なアイディアが次々と出てきた。これも日本がアメニモマケズナツノアツサニモマケズという精神論に優れた民族だからだ。
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