第88話 俺ごと貫け! 魔貫光殺砲!

「魔・貫・光・殺・砲ぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおお!!!!!」


「えっ、ちょっと待って、やめて、撃たないで! やばい死にたくない!」


 繰り返しになりますが、俺はトラックに轢かれて一度死んでおります。でも痛い思いをするのはイヤなので、生に執着して死にたくない気持ちに関しては、死亡処女の人ともほとんど違いはありません。


 俺は慌てた。やばいよ。二階堂さん、俺もろとも撃つ気かよ。ジャンキーかよ!


 焦った俺は、どう避けていいのかも分からず、おろおろするばかりだった。


 その場でしゃがむとか、横に回避するとか、あるいは二階堂さんの右手を掴んで、強引にあさっての方向に向けさせるとか、そういう自衛策を思いつくことができなかった。


 白い煙の中、俺は見た。


 自分の胸の下あたり、つまり二階堂さんの指先が押し当てられた俺の鳩尾辺りで、強烈な光が発せられたのを。


 同時に、SFアニメでビーム砲が発射される時のような鋭い音が鳴り響いた。周囲が煙で何も見えなくても、音は阻害されるわけではないようだ。


 更に同時に、魔貫光殺砲が当たったと思しき肌に、灼ける熱さを感じた。ほんの一瞬だけだった。


 恐らく、何もかも焼き切られてしまい熱さすらも一瞬しか感じることができなかったのだ。


 魔貫光殺砲を食らって生きていられるほど、俺の生命力はゴキブリ並にしぶとくはない。体を鍛えていても、あくまでも生身の人間だ。


 お父さん、お母さん、遺書も書かずに先立つ不幸をお許しください。


 天国のおじいちゃん、おばあちゃん、今、会いにゆきます。


 俺は目を閉じた。白かった視界が闇の黒へと変貌する。


 天国へ召される感覚。


 ああ……


 俺、死ぬんだ。……二度目だけど。


 苦しみが長引かずに死ねたのは、ある意味ラッキーかな。てか、こんなところでこんな不慮な形で死にたくなかったけど。


 ………………あれ?


 何を、俺は悠長にダラダラと思考しているんだ?


 俺は死んでしまったはず、だよな? なのに、どうして、思考している?


 左手の掌を、鳩尾の辺りに当ててみた。


 皮膚の表面にヒリヒリとした痛みはあるけど、衣服にも肉体にも穴は開いていない。


 あれ? も、もしかして、さっきの魔貫光殺砲、不発だったってことはないだろうけど、実際のところ単なるこけおどしだったとか?


「か、監督、……瓦礫を破壊して、脱出路を切り開くのに、成功、しま、した。あ、あとは、私を、相撲部まで運んで、くだ、さい。お願、い、します……」


 その言葉と同時に、白い煙の中から二階堂さんが俺の方にもたれかかってきた。おっと、と言いながらしっかりと抱き留める。


 ど、どうなってんだ? 魔貫光殺砲は、不発じゃなく、ちゃんと撃ったのか?


 煙に邪魔されて状況が見えない。瓦礫を破壊して脱出路を開いたとは言うが、何も見えないので、それが真実かどうかも分からない。


「お、キミは、新入社員の城崎くんじゃないか! ここで足止めをくっていたのか!」


 俺の隣に突如出現した鈴木副工場長から声をかけられた。


「城崎くんもフォースフィールドの魔法で呼吸を確保しているのだろう? すぐに外に脱出するんだ! この魔法は、フィールドの中と外の空気を完全に遮断しているから、外の音は聞くことができるけど、外から毒ガスが入ってくることは無い。その代わり、フィールド内の酸素を吸い尽くしてしまったら、魔法が切れる前に自分が酸欠で倒れてしまうぞ!」


 なんだって!


 今、開かされたフォースフィールドの魔法における長所と短所に、俺はびびったぞ。


 なんで持続時間が短いのか疑問だったけど、その謎も氷解したと言っていいな。


 仮に長時間持続させたとしても、フィールド内の酸素を自分で吸い尽くしてしまって、酸欠になってしまうから、持続時間を長くしすぎても無意味なのだ。


 だったら尚更、万が一にもフィールドの時間が切れたり、その前に内部の酸素が無くなったりしたら困る。


 俺は、抱きかかえている二階堂さんを背中に背負って、鈴木さんと一緒に外に向かって階段を駆け上がった。


 といっても、視界が全然聞かない環境である上に、俺と同等以上に体重のある二階堂さんを荷物として担いでいるので、足の進みは遅かった。


 フォースフィールドの魔法をかけてから、どれくらい時間が経過しただろうか。まだ持続時間は保っているだろうか? 心配ばかりが募っていく。


 階段を昇りながら、魔貫光殺砲がどうだったのかも気になった。


 間違いなく俺に至近距離で命中したはずなのに、俺を素通りして、瓦礫を破壊したらしい。


 鈴木副工場長が脱出してきたのがその証拠といえるだろう。


 そうこうしているうちに、地上に出た。学校の校舎から外に出る。煙が充満してもくもくと上昇している旭川西魔法学園の校舎から更に走って距離を置く。


 もうさすがに煙がここまでは来ないだろう、という安全なところまで来て、俺は二階堂さんをそっと地面に降ろして仰向けに寝かせた。


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