第78話 私は足の裏フェチではありません。信じてください
「まあ分かった。全国大会とは言わないわ。旭川市の大会で勝てるように目標を立てて頑張ろう。……あーまあ、二階堂ウメさんは余所の選手だけど、一緒にやるからには、お互いに高め合おう。……ということでいいかな?」
「はい!」
三人が異口同音に元気に返事した。
「じゃあ、改めて練習するか。それと、恵水」
「なんですか?」
「足は大丈夫なんだろうな?」
「はい。ちゃんと魔法で治しましたんで」
「念のため、足の裏を見せてくれ」
「……なんですか? 足の裏フェチってやつですか?」
「ちゃうわい!」
そんな、いくら俺でも、女子高生の足の裏を見て喜ぶような性癖ではない。
あくまでも純粋に心配して言っているのだ。
本当は治っていないのに隠して無理して練習に参加、なんて昭和スポ根みたいなことがあっては困る。
さすがに恵水も、俺が不埒な目的で言っているわけではないことを分かってくれたのか、俺に対して背中を向けて、右足で立ち左足の膝を折って足の裏をこちらに向けた。
裸足で土俵に立っているので土が付着して茶色く汚れているものの、目に見える傷だとか、不自然な赤みなどは無い。
「あ、本当に大丈夫そうだな」
「こっちも」
恵水は今度は左足で立ち、右足を後ろに上げて足の裏を見せてくれた。……こうして改めて考えると、女子高生の足の裏なんて、見る機会は無いぞな。希有な経験をしてしまった。ピロリンという効果音と共にレベルアップとかしそうだ。
……じゃなくって。俺はそんなヨコシマなことは考えていない。
「うん、分かった。大丈夫そうなので安心した」
改めて、魔法うらやましい。俺も使いたい。
ハワイアン大王波は無理でも魔貫光殺砲だったら撃てるんじゃないのかな。後で公園かとこか広い場所に行って撃ってみようか。近所迷惑になるからダメかな。
「じゃあ、まずはクロハと恵水で取り組みやってみて。二階堂さんに関しては、もうちょっと体を見てみたいので、テッポウでもやってもらうかな」
「は? 体をみてみたい? 何それ? またエッチなこと考えているの?」
尖った声で突っ込んできたのは恵水だった。
「違うっつーの。二階堂さんがどの程度できるのかを見てみたいんだよ」
「でも、『体を見てみたい』なんて、すごくいやらしい言い方をしたでしょ」
っ、た、確かに、迂闊だったというか、誤解を招く言い方になってしまったのは事実かもしれない。認めたくはないけど。
「だからそうやって悪意的に解釈するなよ。あくまでも相撲の能力を見るために、体の柔らかさとかテッポウの動きとかで、身体能力というかポテンシャルを確認しておきたいんだよ」
なんで、必死に弁解というかいいわけみたいなことをしなきゃいけないんだよ。俺、ぜんっぜん悪いことなんて言っていないはずなのに。ちょぃと誤解を招きやすい表現をうっかり出してしまっただけで。
俺の弁解を聞いても、恵水は既に眼鏡を外した目をジト目にして俺を睨むだけだ。……いや、もしかしたら眼鏡をかけていないから単に俺の顔がよく見えないから目をすがめているだけかもしないという可能性がワンチャン……
「いいから、さっさとクロハと恵水で取り組みをやれよ」
「監督……誤魔化した……」
誤魔化してねえってばよ。
そう言いつつ、恵水は西、クロハは東に蹲踞して、取り組みを開始した。二階堂さんはというと、邪魔にならない脇に避けて、土俵上の二人の動きを見ながら、四股踏みをやり始めた。
俺は、土俵の二人の動きを目で追いつつも、視界の端では二階堂さんの四股踏みも見なければならない。
部活の指導って、やっぱ大変だな。
部活の顧問として生徒を指導していた中学校や高校の先生って、普通の授業も受け持ちつつ、その上更に部活の指導という、すごい大変なことをやっていたんだ。今更ながらの改めての尊敬の気持ちが湧いてきた。
それと同時に、自衛隊出身の友人が以前に言っていた「学校の先生なんて世の中で一番ラクでヌルい職業だ」という言葉が、単にヘイトに基づいたものであって事実とは異なっているということに思い至った。
教師の団体と自衛隊は政治的主張が真っ向から対立するからお互いヘイトするのは分からなくもないが、他者の職業を貶めるような発言をするのはダメだよね。もちろん、教師が自衛隊のことを「殺人者だ」などと言うのも言語道断だ。
そんな思考を脳内で回転させている間に、クロハと恵水は呼吸を合わせて、立った。頭からごつんと衝突する。
うん、やっぱり、元の世界のテレビ画面で見慣れた男の大相撲と比較するとしょぼいけど、女子高生同士の相撲と考えれば、充分に気合いの入った激しい当たりだ。
そこからすぐに、双方がまわしを取った。東のクロハが上手、西の恵水が下手だ。
反対側は俺からはよく見えないが、そっちも双方がまわしを引いているっぽい感じの体勢かな。てことは左四つ右上手ってことかな。
いわゆるがっぷり四つだ。こうなると、まあ大体お互いの胸が合うんだよな。
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