第35話 キミは1000パーセント!!!
「なあクロハ、今の店内放送でしゃべっていた人って、誰だかわかるか?」
「ナレーションの人? ローカルテレビ局のマスコットゆるキャラの声優さんでしょ」
え、そんなローカルのキャラクターに声優なんか起用しているの?
「声、で仕事をしている人はみんな声優とみなされているからね。すけモンっていう猿のキャラクターだよ」
なんだよ、熊本県の有名ゆるキャラをパクったようなネーミングは。と、思ったけど、最後のモンは猿だからモンキーのモンなのか。
そう思いながら、俺は手に持っていたビタミンカステラをレジに出す。レジに立っているのはオバサンパーマのオバサンだ。……オバサンといっても、アラフォーの俺よりちょっと年上なだけなんだよな。俺も年をとったもんだ……
「あ、赤良。消費税は9掛けだからね。あんたが知っているよりは、きっと高いと思うから注意してね」
オバサンがビタミンカステラのバーコードをスキャンするタイミングで、クロハが短く言った。
へ? きゅうがけ?
きゅうがけ、って、9掛けるってことだよな。×9。
俺が居た現実の日本と税率が違うのか?
俺が居た日本では、平成の始まりと共に導入された消費税は、最初は3パーセントからスタートし、やがて5パーセントになり、順調に成長して8パーセントになり、リーマンシ○ックの危機も乗り越えて10パーセントにまでなった。と、記憶している。
俺のいた現代日本では、日本国民の大部分が、消費税をアップすることを是とする政党に選挙で投票していた。だから途中で税率が下がることもなく、順調に育ったのだ。
結論。日本国民はみんな、消費税が大好きなのである。
でも、ここは異世界だ。状況が違うのかもしれない。
9掛け、ってことは9パーセントか? でも、それで高いなんて言うだろうか。
ま、まさか、90パーセントなんてクレイジーな数字は出てこないだろうし。
ピッ、というスキャン音とともに、レジの画面にデジタルの数字が表記される。
「100円が一点。合計金額1000円になります」
おばちゃんの声とともに、レジの画面に表示された100という数字が、どういう魔法によるものか、1000に変化した。
「は?」
ちょっと待ってください。思考が追い付かない。
まずそもそも、ビタミンカステラって、1本50グラムという量に対して、本体価格だと84円とか、それくらいだったはずだ。消費税を足しても100円でおつりが来るリーズナブルさが魅力だったはずだ。
でも今の言い方だと、本体価格が100円になっているような……
ま、まあ、言っても異世界ですし。物価がちょっとくらい高くても文句を言っている場合じゃない。たった16円とか、それくらいじゃないか。一応社会人なんだし、カステラ一個あたり16円の違いに目くじらを立てるような心の狭い大人にはなりたくない。
でも、それはいい (良くないが)。
なんで請求金額がナチュラァルゥに1000円にチェンジした?
「だから言ったでしょ。本体価格100円だったら、消費税が9掛けの900パーセントで900円だから、合計金額は1000円になるわよ。当たり前でしょ」
「え、なんだって? 90パーセント?」
ああ、ついに使っちゃったよ。ライトノベルの主人公御用達、難聴スキル。「え、なんだって?」という台詞がお約束。
それって大抵、美少女ヒロインが小声で主人公に好意を示す発言をした時に発揮するものだったはず。
こんなシチュエーションでの難聴スキル、何の嬉しみもありがたみも無いわ。
「90じゃなくて、900パーセントだって。そんな90パなんて、安いはずが無いでしょ? 赤良って常識無いの?」
俺の常識感覚を疑われてしまったよ……オーマイガッ!
ああいやいや、よく考えたら神というか女神がすぐ隣に居るんだった。その女神がムチャクチャ理不尽なことを言っている。
消費税900パーセント、だと!?
それ、どこの世界の話だ!?
……ああ、ここ、異世界の話か。
なんだよ、それ。
本体価格と合わせたら、1000パーセントの金額を支払うことになるじゃないか。
こっちの日本国民、消費税好きすぎないですか?
「……ご確認ください。9000円のお返しです。ありがとうございました」
あ、俺、無意識に高額紙幣を出して支払っていたらしい。おつりの9000円受け取った。
そして俺の左手には、ビタミンカステラ50グラムを一個だけ入れた白い小さいレジ袋が揺れる。
50グラムの安くてお得なはずのビタミンカステラをひとつ買うだけで1000円?
本体が100円で、900円が消費税?
おいおい、こちらの日本にある財務省だか大蔵省だか。何をやらかしたら、そんな数字になるんだよ。軽減税率とかは無いのか? あるいは、あって、それでいてこの税率なのか?
俺は亡霊のような足取りでとぼとぼとオレンジ色のコンビニから出た。目の前の車道を、自衛隊の戦車を乗せた大きなトレーラー車が走り去って行った。
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