第27話 体育会系は優遇されます

 さすがにクロハや恵水なんかは、まだ高校生だから恋愛対象として見ていないけど、亀山マネージャーは若いとはいえ大人の社会人だ。美人だとついつい目が行ってしまうのは、男子としては仕方のないことだろう。


 とはいっても過度な期待など、これっぽっちも持っていないけどな。今までほとんどモテたことのないまま独身アラフォーになってしまいやがった俺は、すっぱい現実を知っている。向こうは、俺に対してはフォークリフト運転手として以上の興味などどうせ持っていない。


「15時からは、工場では15分間のおやつもぐもぐタイムなのですが、あなたは相撲部監督ということなので、15時になったら仕事を切り上げて、すぐに地上階に上がって魔法学園の相撲部に向かってください」


 えっ? 何それ? もぐもぐタイム? そんなのあるの? でもその言い方だと、俺はそのおやつタイムに参加できないっぽいんですが?


「学校が放課後なので、そこで相撲部の指導をお願いします。基本的に17時までです。それで8時間労働となります。給料は日給月給制で、時給はこんな感じです」


 それで8時間? ということは、フォークリフト6時間、相撲部監督2時間で、合計8時間、ってことかな? それで8時間分の給料がちゃんと出るっちゅうことか? 時給は、まあ、悪くない。はず。ここ異世界旭川の物価が、今となっては向こう側になってしまった、元々俺の居た日本と大差無い場合、という条件付きだけど。


 日給月給だから、月給じゃない。休んだら給料が減ってしまう。平成から令和に切り替わる時のゴールデンウィークのような10連休があったりすると、工場が休みになると詰むわけだな。


「あと、細かい条件等につきましては、こちらの労働契約書をご覧ください。こちらも後で熟読していただいて、問題なければ押印して、一部はそちらの控え、一部は工場の方の控えとさせていただきます」


 労働契約書か。それが無いままウヤムヤで無限に無給残業とかさせられたら、たまらないからな。無いよりは有る方がいいはずだ。まあ、後でちゃんと細部も読んでおこう。


「なお、相撲部監督を勤務の一部とする以上、結果を求められることは理解してください」


 結果が求められるのは、社会人としては当然だ。努力が評価されるのは学生の部活までだ。……でもその結果って、具体的に何をすればいいんだ?


「旭川西魔法学園は、私の母校でもあります。私も相撲部OGです。ですから私もいずれは本土へ行けという召集令状が来るかもしれません」


 へえ。亀山マネージャーって、相撲部出身だったのか。本土行き召集令状ったら、随分物々しい言い方ではあるけど、要は本社栄転とか、ヘッドハンティングされるとか、そういった可能性が多いってことだろうな。相撲部出身ということは採用において優遇されるのかな。


 俺が居た現実の日本でも、大学の体育会系部活出身者は一流企業に引っ張りだこだったし。東京六大学や東都の野球部とか、あるいは陸上部で箱根駅伝に出ているような大学だと、大学名を言っただけで企業の採用担当者から「野球部ですか?」とか「箱根駅伝に出ていましたか?」とか尋ねられるって、友達から聞いたことがあるぞ!


 あ、これは本当に友達からの伝聞だ。俺本人の話じゃないぞ。俺は高卒だ。残念ながら大学には行っていない。


「あなたは、西魔法学園の相撲部監督に就任するわけですから、相撲部を強くしてもらわないと困ります」


「もちろんです。さっき、実際にクロハと恵水の相撲を見た上で、彼女たちを強くできる自信があります!」


 俺は力強く宣言した。当事者の一人であるクロハが隣で聞いているけど、そのクロハにも聞かせるつもりで高らかに言った。こういうのは言い切った方がいいはず。そうすればクロハも安心して俺の指導についてきてくれるはずだ。


 自信満々に言ったのだが、目の前、というか目の斜め前の亀山マネージャーは寂しそうな残念そうな、いや、そうではないな、残念なモノを見下すよーな目をした。


「あのですね。部員を強くするのは当たり前です。私が言っているのは、部を強くしてくださいと言っているのですので、お間違えないように」


 ぶ。


 だと? なんだそりゃ? 相撲部を強くする? 部員のクロハと恵水が強くなったら相撲部も強くなるんと違うのか?


 これがサッカーとか野球みたいな団体競技だと、個々の選手の強さが必ずしもチームの強さに比例しないケースもある、というのは勿論分かる。でも相撲は個人競技じゃん。


「いくら個人が強くなっても、人数が少ないままだと、個人戦には出場できても、団体戦には出場できませんよ」


 ああ、団体戦の話か。確かに、いくら個人が強くなっても、人数不足なら団体戦には出場できない。それは道理だ。


 ……って、ちょい待てや。


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