第3話 ラッキースケベは突然に
俺は、ド派手な風神雷神のスカジャンなんて着ていて、顔もコワモテだからガラが悪いように思われることも多い。が、普通に倉庫でフォークリフトに乗って働いているまっとうな人間だ。コンプライアンス意識も常識的に持っている。
自転車の二人乗りなどという、あからさまに危険で違法な行為を公道でするわけにはいかない。ケーサツに捕まって怒られるのはゴメンだ。
常識的な大人の発言に対して、美少女クロハ・テルメズは、なんか憐れむような表情をした。
「はぁ? 何をマヌケなことを言っているの? …………って、ああ、そうか。アンタ、ここが異世界だってことを、まだ理解していないのね? それなら仕方ないわね」
なんか一人で納得してやがる。
でも、ここって本当に異世界なのか? 普通に旭川じゃないのか?
「そりゃ、自転車に二人乗りして公道を走れば、道路交通法違反で、税金の飼い犬たるポリスメンの点数稼ぎのお世話になっちゃうけど、道路を走らなきゃいいんだから。さあさあ、早く後ろの荷台に跨って!」
クロハ・テルメズがあまりにも急かすものだから、ついつい俺は言われる通りに後ろに回り込み、ママチャリの荷台に跨った。俺は身長180センチ。少し膝を曲げて、荷台に軽く尻を触れさせる感じの格好になった。
しかし、2ケツはしたけど、これで公道を走らないというのは、どうするというのだろうか?
「じゃあ、しっかり掴まっててよ! 空を飛ぶから!」
「えっ? そ……」
聞き返すヒマすら無かった。俺の尻の肉に荷台の鉄のフレームが真下から食い込んでくる感覚があったと思ったら、上に参りまーすのエレベーターに乗っているような浮遊感覚が三半規管にコンニチハする。
「おわわわわわっ!」
ママチャリが、前にクロハ・テルメズ、後ろに俺・城崎赤良を載せた状態で、空中にゆっくりと浮かび始めたのだ。
後ろの荷台に軽く跨っているだけの状態だった俺は、不意打ちで空中に浮かぶことになったのでバランスを崩しそうになった。慌てて両腕を前のクロハ・テルメズの胴体に巻き付ける。
あまりにも急なことにビビってしまい、三〇過ぎのオッサンが一〇代の美少女にガッチリと後ろから抱きつく格好になってしまった。
むにゅ。
むにゅ、むにゅ。
クロハ・テルメズの胴体に後ろから抱きついた俺は、両手の掌に柔らかい感触を丸く感じていた。
……こ、これは……
俺の右手がクロハ・テルメズの左のおっぱいを、左手が右のおっぱいを、クロスして掴んでいる感じの格好になっちゃっているではないか。
「ちょ! 何やってんのよ、このエロ男!」
クロハ・テルメズがマジで大声で怒鳴った。同時に身をよじって抵抗する。同時に自転車の空中浮遊が不安定になり、ママチャリ自体が空中で揺れる。こりゃ、気流の安定しない中を飛ぶ飛行機よりも恐ろしい。
「あわわぁわわわぁぁぁ」
「さっさと胸から手を離しなさいよ、城崎メンバー! 強制わいせつ容疑で税金の飼い犬に突き出すわよ!」
美少女クロハ・テルメズの胸はワンピースの上から見た限りではあまり大きそうではなかったが、偶然触ってみると、やっぱりそれほどの大きさではなかった。俺の掌に丁度すっぽり収まる感じだ。マシュマロのような柔らかさは、このままずっと揉み続けていたいと思えるような快感ではあるが、クロハちゃんがマジでお怒りの様子だし、その怒りと動揺によって自転車の空中浮遊が不安定になっているらしいと推測できる。自分の身の安全のためにも、俺は冷静な判断をすることにした。
彼女の胸を鷲掴みにしていた手を下に移動して、彼女の腹の部分に腕を回す格好にチェンジ。さすがに完全に手を離してしまうと、空中浮遊自転車の上で不安定すぎるので、そこまではできなかった。
また、クロハたんも、おっぱいを掴んでいた俺の手が腹に移ることによって落ち着きを取り戻した様子だ。さすがに空飛ぶ自転車に二人乗りするにあたって、腹に手を回すのまでは拒否しないらしい。
クロハが暴れなくなると、自転車の揺れも収まった。風も穏やかだし、真っ直ぐな状態で浮いているならば、落ちる心配も無さそうだ。少し精神的余裕ができたので周囲を見渡すと、旭橋のアーチの最高点より少し高い位置に浮かんでいるらしい。
「ちょっと、城崎メンバー、どさくさに紛れて女の子の胸を揉むなんて、とんだケダモノっぷりね!」
「そりゃ言いがかりだ! 自転車が空に浮かぶなんて聞いていなかったから、思わず弾みで胸に手が行っちゃっただけだよ! 事前に空を飛ぶって言っててくれれば、間違って胸に触るなんて事態にはならなかったよ!」
嘘ではない。
動揺して慌てて、たまたまおっぱいを触ってしまったのは事実だ。意図して触ったのではない。あくまでもラッキースケベだ。
でもまあ、確かにラッキーだったとは思う。自転車が空を飛ぶと事前に通告されていたら、胸を触ってしまうというLS事故は発生しなかったはずだ。
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