プロローグ
グロリオは机の上に広げた紙を睨んで腕を組み、アキレアがその横から覗き込んだ。
新入生の昇格試験が近づいている。
この試験に合格できれば、正式にスラウとラナンが正式な隊員として活動することが認められるのだ。
彼らが無事に試験に合格できるよう、計らわなくてはいけない。
勿論、絶対に面倒を見なくてはいけないというわけではないのだが、新入生が試験を通過できなかった場合、気の遠くなるような1年を待って再受験しなくてはならない。
人数が少ないままでは任務遂行にも支障が出るということで、多くの隊では自分の隊の新人が合格できるよう特訓してやるのだ。
その為に隊長には長たちから資料や助言を送られてくる。
「能力は平均程度。歴史学、気象学、薬草学は平均点を上回っているわね……」
アキレアが紙を読み上げた。
「実技はどうなの?」
向かい側のアイリスが尋ねるとライオネルがグロリオの座っているソファの後ろから首を伸ばした。
「結界術はかなり良い成績だ。武術は平均程度。強いて言えば能力がもう少し欲しいな」
「武術も能力も特訓次第でしょうね」
ティーカップを手に談話室へ来たランジアが言った。
「何か問題でもあるの?」
アキレアが額に深い皺を刻んだままのグロリオに尋ねると、彼は我に返って顔を上げた。
「ん? ああ……今、お前らの見ている成績表はラナンのだろ? ランジアの言った通り、特訓次第で伸びる。俺たちの中で手の空いているヤツが相手すれば、特に心配することはねぇよ」
グロリオは拳でもう1枚の紙を叩いた。
「問題はこれだ」
名前が書かれている欄の下に正七角形の図がある。
中心から端に向かって線が伸びており、それぞれの分野に対する評価が示されている。
「スラウは……体術、光の能力、剣術は満点に近い評価ね。この段階でこの点数はなかなか出せないんじゃない?」
アイリスが感嘆する隣でアキレアが渋い顔をした。
「だけれど結界術、歴史学、気象学はぎりぎり平均越えという感じ……油断はできないわね」
「いや、それより……これはまずいだろう……」
グロリオの指差した先には、薬草学とドラゴンとの飛行技術があった。
どちらも限りなくゼロに近い。
「え?! 薬草学がこの成績?!」
グロリオの横に腰を下ろしかけていたライオネルが思わず声を上げた。
自他共に認める薬草学の知識と技術を兼ね備えた彼には想像し難いものなのだろう。
「これ……特訓をしなきゃいけなかったグロリオよりも酷いじゃないか!」
「うおっ! さりげなく古傷に触れるの、やめてくれ」
「……座学はからっきしだった」
階段に座っていたハイドがぼそりと呟いた。
「……っるせーな! 俺は実践派なんだよ!」
「頭が伴わなければ意味は無い」
「ぐぅっ……」
「はいはい、2人ともそこまでにして」
アキレアが割って入った。
「それにしても、調合ってそんなに大変かしら? この段階だと消毒薬とか基本的なものだけよね?」
「あぁ。何て言うのかな……」
グロリオが頭を掻いた。
「ほら……例えば剣術に優れた才能を持っている人って、素質もあるし上達も早いだろ? つまり、その……逆もあるわけで……」
「極端な話、薬草学を習得するだけの能力がないってことね」
「ちょっとランジアも言い過ぎのような気はするが……まぁ、そういうことだ」
「俺が教えるよ。グロリオに教えた経験もあるしね」
ライオネルが手を挙げたのでアキレアは頷くともうひとつの極めて指数の低い事項を指差した。
「じゃあ、任せるわ。こっちはどうするの?」
「これは……」
言いかけたグロリオは口を噤んだ。
ドラゴンについては本人とドラゴンが築く信頼関係に依るところが大きい。
「これは……後日また考えよう」
この言葉で会議はお開きになった。
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