第30話

 それからしばらくして私たちは金魚掬い屋さんのテント後ろに移動した。屋台の裏側は人が少なく、食べ物の店を出している人が忙しくものを運んでいるのが時々見える。


「それでは結果発表」


 いずみが私たちより少し高いところに行こうと小さな段差を登って言った。


「では第四位、美夢&遥華、二位私・・・」


 いずみが言った通り私は美夢と同率、つまり一匹も取れなかったことになった。。最後の最後まで頑張った。頑張ったんだよ。どれが取りやすいかなって見定めて、それで取れたんだよ。だけど二匹目を狙っているうちにボールが傾いていることに気づかず、その隙に逃げられた。


「うー、取れてたのに」


「まぁまぁ、ハルちゃんはよく頑張ったよ」


 悔しさが湧き上がってくるのを美夢は落ち着かせようとしてくれる。美優は本当にいい子だ。


 そんな私たちに御構い無しに順位が発表される。


「一位は西野さん、なんと二十一匹と圧勝でした。いやぁ、金魚掬いなら勝てると思ったのになぁ」


 いずみが絶対勝てると思って私たちに勝負を仕掛けてきたことが言葉に漏れている。


「ただでたこ焼きや焼きそば食べたかったなぁ」


 雲ひとつない暗くなった空を見上げながら遠くなった夢をつぶやくいずみ。その夢を壊した楓はうーんと唸っていた。


「それで西野さんは私たちにどんな命令をするの?」


 美夢がそう言うと楓はいずみの方を見た。


「勝者って一人ひとりに命令するの?それともみんなで一つの命令?」


 空を見上げていたいずみが楓の質問にすぐに視線を下ろした。


「私は一人ひとりにするつもりだったよ。だってその方が三種類も食べられると思ったから。ま、勝者は西野さんだから任せるよ」


「そっか〜」


 今度は唸ることなく静かになにかを考え始めた楓。目がやたらと真剣である。


「じゃあ、たこ焼き食べたいなぁ〜」


 悩んでいたにしてはそうでもない願いだった。私はてっきりもっとこう・・・ってなに想像してんだ私は!


 急に想像していた自分が恥ずかしくなった。暑さのせいか、背中が汗ばみ始めた。額からもへんな汗が垂れてくる。


「それじゃたこ焼き屋探しますか」


 段差から降りたいずみが先に人混みの方へと歩いて行く。美夢は迷子になるよと言いつついずみについて行く。私も追いかけようとすると楓が私の横腹を肘で突いた。


「あの二人といるときの遥華、すごく楽しそうだね」


「そう?」


「そうだよ」


 楓は一度先頭を歩く二人を細目で見た。


「だからあの二人に嫉妬しちゃうな」


 私はなんて反応すればいいのか迷った。確かに二人といると飽きることはない。でもそれは楓とも同じ。時間を忘れるぐらい一緒にいて楽しい。


「かえ・・・」


「な〜んてね。早く二人を追いかけよう」


 楓は笑顔を私に見せるとそのまま歩き出した。人混みの中でいずみが手を挙げて跳ねているのが楓の先に見えた。



 それからしばらくは屋台を転々とした。たこ焼き屋に辿り着くまでに唐揚げ、ポテト、いずみだけりんご飴を購入していた。射的やくじもしてみた。射的で美夢が運良くカエルの人形を取った以外の成果はなかった。


 屋台に着くと楓以外でお金を出し合い八個入りを二つ買った。プラスチックの容器に入ったたこ焼きはホクホクと蒸気を出していて上でカツオが踊っている。容器の隙間からはたこ焼きのいい匂いが漂ってくる。


「おまたせ」


 屋台の後ろに階段があって、そこで待っていた楓といずみに声をかけた。買い出しに行ったのは私と美夢、いずみは美夢にお金だけ渡すと行ってらっしゃいと言って手を振ったからだ。


「美味しそうじゃん、早く食べよう」


 いずみは待ちきれないと言わんばかりの美夢からたこ焼きを受け取るとあれ?と首を傾げた。


「爪楊枝一本だけ?」


「あ、忘れてた」


 美夢がそう言ったので私の持っているたこ焼きを見る。こちらも例外なく一本しかない。


「私もらってくる」


 楓に自分たちのたこ焼きを渡すしさっきの屋台の方を目指して駆け出そうとしたとだった。


「一本でいいよ」


 楓の声で私は足を止めた。


「私は気にしないからいいよ」


「・・・わかった」


 いずみと美夢はそこらへんを元から気にしていないようで一本でいいよね、と話していた。


 私は屋台の方に向かうのをやめて楓の横に腰を下ろした。

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