第19話
楓は小首を傾げたまま、私の顔を見ながら尋ねる。そんな楓から目をゆっくりと泳がせる。
「・・・これって大勢でするものだし、二人だと・・・楽しくないかもよ?」
素直に嫌と言わず、遠回しに言った。その言葉に楓は違うところを突っ込んできた。
「遥華高校に仲良い子私しかいないじゃん、やる機会今しかなくない?」
「うっ・・・」
確かに私には高校での友達はいない。中学の友達はいるものの、連絡先とか知っていても連絡を取ってない。高校初めては遊びに行っていたのに。
「だからやろう、ね?」
「・・・わかった」
私は諦めた。一回遠回しにでも嫌と行ってダメなら諦めた方がいい。何度も同じことを繰り返すループに入ってしまいそうだから。それに楓の押しは勢いがあり、私は回避できたことはない。
「じゃあ、二人しかいないから勝負しようよ。交代でやって二回参った、もしくは恥ずかしいがったら負け。どう?」
「勝ったら何かあるの?」
勝負と言うことは何か景品が出るのだろう。そうでなければ勝負と言った言葉を使わない。勝ったから勝ち、負けたから負けという事実を受けるということだけかもしれないけど。
私の問いに楓は腰に手を当て、胸を張ってドヤ顏で答えた。
「勝った人には負けた人になんでも一つ命令ができる。負けた人は勝った人の命令を絶対に遂行しないといけない、でどう?」
「べただね」
定番と言うか、王道と言うか。グループゲームでは絶対と言ってもいいほど出てくる報酬。
最近読んだ漫画でも、主人公の好きなアツシ君の友達が修学旅行でトランプをする前にこんな提案していた。結果は確か、主人公の友達が勝ってラストだった二人だった主人公とアツシ君を買い出しに行かせたんだっけ。男子はつまらんとか言っていたけど、女子はその子と称えていた。
本棚にチラッと目を向けその漫画を目に入れる。
楓とだからそんなことにはならないし、お願いごとも違う。でも負けることを考える必要はない。勝てばいいのだから。
「始めるよ、先攻と後攻はこれで決めよう」
楓はそう言って鞄から財布を取り出した。財布から十円玉を取ると再び鞄にしまった。取り出した十円玉はテーブルの上に置かれた。
「コイントス?」
「そう、これなら早く決まるし、公平でしょ」
確かに公平だと思う。コイントスにわざわざ細工はしないだろう。それに本物の十円玉を改造したりしたことがバレれば違法で捕まる。
「数字と建物どっちがいい?」
「う〜ん・・・数字で」
「わかった。いくよ」
楓が親指の上に十円玉を置いてから勢いよく弾いた。宙を舞う十円玉は一定の高さまで行くと自由落下をしてくる。それを楓が手の甲と平でパチンと音を立てながら挟んだ。
上に乗せた手をゆっくりと退けると建物が表に現れた。
「私が先行だね」
十円玉を置くと楓が姿勢を正した。
「いくよ」
「・・・うん」
「・・・あ、愛してる」
「もう一回」
「・・・愛してる」
「も、もう一回」
「愛してる」
「・・・もう一回」
楓は回数を重ねる度に躊躇がなくなってきている。一方の私は最初は平気だった。ただ右耳から入った楓の言葉を左耳から出すような感じ。つまり聞き流していたのだけど、回数を重ねるとそうはいかなくてなっていった。
そして私たちの一戦目は楓の会心の一撃によって終わりを告げた。
「愛してるよ、遥華」
「も、も・・・、参りました」
私は降参をした。
「名前呼ぶのは卑怯だよ」
「そんなルールは書いてないよ、遥華も使うといいよ。私は遥華の気持ちを受け止めてあげるから」
両手を広げてドヤ顔をする楓。イラッとする。私の中にもやる気が徐々に上がってくる。負けたくない、その気持ちだけが私を包む。
「今度は私から行くよ」
「バッチ来い」
野球部みたいに言ってから楓は広げた手を収めた。
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