第10話

「遥華、今日も一緒に勉強しよう?」


 翌日の昼休み、空は曇り空だったけど私たちはいつものように屋上に着ていた。最近屋上ばかりでもう一つの穴場スポットに行っていないような気がする。


「今日も?」


 昨日は家に帰って一人で図書室の続きをした。図書室での勉強は集中出来ていたとはとても言えない。教科書に書かれた問題を解いている時や読んでいる時に横から視線を感じるから。


 廊下を一人で歩けば多くの人が私を見る。楓がいるとより見られる。でもテスト期間中の図書室では私を見ているのは一人しかいなかった。


「楓が見てくるから集中出来ないんだよね」


「え〜私のせい?」


 楓の顔を見ながらしっかりと頷く。


「わかったよ。見ないようにするから、ね」


 ね、と言われても二人で勉強をする必要は私たちにはないと思う。お互いわからないところを聞き合うわけでもない。ただ一緒にいるだけ。・・・一緒にいるだけ?


「ねぇ楓?」


「何?」


 パンを食べ終えたらしい楓は袋を小さくしている。


「テスト勉強って口実?」


「な、何のこと!?」


 楓の目が徐々に反対側を向いていく。私はため息混じりにやっぱり、と呟いた。楓はだって〜、と頬を膨らませながらこちらを見る。


「一緒にいる時間が付き合う前と同じだもん」


 拗ねたような顔の楓を見る。


 たしかに付き合っているとはいえ、私たちが二人でいる時間はこれまでと何ら変わらない。お昼やグループ学習、体育もいつも一緒にいる。だからそれだけで十分だと私は思っていた。


 でも楓は違うらしい。


「楓は私と長くいたいの?」


「当たり前じゃん!」


 なんの躊躇いもなく楓が即答するので少し身を後ろに引いてしまった。答えにではない。その勢いに驚いただけ。


「そ、そっかー」


 雲の隙間から見える青い空に目を向けながら細く声を漏らす。


「夜だったらLINE電話してきても良いのに」


 告白の答えを伝えてから三日間ぐらいはやり取りをしていた。でもここ四日間は私の携帯には着信のちゃ文字もない。来るのは店からの情報やイベントの通知だけ。


「だって・・・」


 低い声で楓が声を出す。


「私からばかりで遥華からかけてくれないもん」


 確かに私から連絡したことはなかった。もしかしたら、というより私からの連絡を待っていたのだろう。


「ごめん、全然分からなかった。てっきり楓が忙しくなったのかと」


「私は毎晩堪えていたんだよ!」


「ご、ごめん」


 電話をしないだけでここまで怒られたのは初めてだった。怒られることもそうそうないだろうけど。


「じゃあ今日は私からかけるよ」


「・・・命令したみたいでなんかやだな」


「どっちなの!?」


「だって遥華がかけたいと思ってかけてくれるのが嬉しいの。私が言ったからじゃなくて」


 めんどくさいと少し思ってしまった。世間一般の彼氏はこんな彼女の気持ちを読み取っているのだろうか?それとも私が例外なのかな?


 持っているマンガを思い出して見る。その中に今の楓と似たようなことを思っていたヒロインがいたような気がする。


「わかった。私からもなるべく電話するようにする」


「うん・・・、とそれはそれとして今日の勉強なんだけで」


 楓は本題を思いだ出して脱線していた話題が元に戻る。


「マックでしない?」


「マックで?」


「そう、マックで」


 私はわざわざマックに行く理由が分からなかった。勉強するなら図書室でいい。静か・・・ではないが、それでも落ち着いて出来る。


「そもそも、今日も一緒にするって言ってないんだけど・・・」


「近くのでいいよね?」


 楓が強引に話を進める。楓はこの先も強引に話を続けるだろう。私は露骨にため息を吐いてみせた。私の負けだと言うように。


「・・・わかったよ、行くよ」


「よし!」


 楓はガッツポーズを胸の前で軽くした。私の空いていた放課後の予定がこうして埋まってしまった。






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