届かないほど遠く
赤崎シアン
止まった時間
細い雨が街を濡らし、身体を重くする。
左手に持った花たちは喜んでいるだろうが、僕には喜べるものではなかった。
暗く、澱んだ灰色の空。無気力と落胆の色。
墓石の間に張り巡らされた、碁盤の目状の通路を進んでいく。
一歩踏み出すたびに降り注いだ雨水が跳ねて、楽しげな音を立てて遊ぶ。
十二つ目の交差点で右に折れ、十七つ目のお墓。見るからに周りのものより新しく、綺麗なお墓だ。
君は、ここで眠っている。
一週間前、君は突然、空へと旅立った。
特に健康状態が悪かったわけでもなく、病気があったわけでもなく、不慮の事故があったわけでもない。
本当に突然、君は、命を落としていた。
前の日まで、普通に笑って、怒って、食べて、寝て、夢を見ていたはずなのに。
持ってきた花を手向ける。
君の好きだったコスモスは用意できなかったけれど、とても綺麗な花たちだ。きっと君も喜んでくれると思う。
冷たい色の空間に、花の彩は浮かんで見える。花たちの生きた色とお墓の暗い色の差が、生きている僕と死んでしまった君との差を表しているようで、とても寂しくなった。
君は一緒にいて、とても楽しい人だった。毎日がカラフルで、ジェットコースターみたいに、僕はいつも君に振り回されていた。
服を買いに行った時も、パンケーキを食べる時も、洗濯ものを畳むときも、並んで寝る時も、君はいつも嬉しそうで、とても楽しそうで、毎日君は笑顔だった。そんな君につられて僕も笑っていた。
けれど、君がいなくなってから僕の日常は灰色になってしまった。笑えなくなってしまった。
カバンから缶を取り出し、墓前の空いている場所に置いてやる。もう一つ、取り出して今度は缶を開ける。
ぷしゅと小気味良い音を立てて飲み口が開ける。そしてそのまま一口、口をつける。
爽やかな甘さと少しの酸味、炭酸の刺激が心地よく喉を通っていく。
君は初めて会った時からいつもこればかり飲んでいた。大人になってお酒が飲めるようになってもそれは変わらなかった。
君が好きだったものを供える。それくらいしか今の僕にはできなかった。
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