難民

 その後、何度か丘陵を上り、下りし、前方の山間に立つ大きな砦がレクイカ隊の皆の目に入ってきた。

 隣国への、国境の関所だ。

 周囲には高く密生した木々と、山肌が聳え、ここを抜けるよりない場所だ。

 

 近づくと、その山間の砦を前に一度開けた平地へ出る。

 そこに、その人々はいた。

 

「この方々は……」

「レクイカ様。これはまるで、難民のようですね」

 

 百人以上はいるだろう、ほとんどの者が難民と言っていいぼろぼろの格好で、座り込んだり、立ち往生している様子だ。

 

「これは、どういうことかしら?」

 難民達を前に、レクイカが手で制止の合図をし、隊は馬を止める。

 

 騎士達の他には、二名の行商人と各々その馬に乗せてもらっている青年、幾らか年寄りの男の計四名の民のみが隊に残り付いてきた。

 

「私が民の中に入って、状況を聞いてきましょうか」

 青年が言う。

 

「ありがたいですが、そうね……危険はなさそうだけれど」

 レクイカは少々思案する。

 

 難民達は血色が悪いというほどではないが、多くが疲れた表情や困った表情でいる。武器を持った者や、怪しそうな者の姿はなさそうだ。

 

「レクイカ様。では、数名ずつの組で手分けして聞き込みして参りましょう」

 ミカーがそう言い、馬を降りる。

 

「商人の方々もお願いします。話はお得意でしょう。ミートもほら、行きますよ。積極的に民と話し、コミュ障を克服するんです。何より、レクイカ様にべったりしていないで」

 

「し、してなかろう」

 むしろミカーがうるさいので、少し距離を置いていたくらいだ、とミートは思う。

 

 レクイカは微笑なのか苦笑なのかわからないが、馬を降りるミートを見て笑い小さく手を振ってくれる。

 ミートは少し、照れる。

 

 ともあれ、ミートは面倒くさいと舌打ちする商人の一人と青年と組んで、難民らの群れに入っていった。

 ミカーとファルグは二人で、難民の中の女性達に話を聞く。

 時折、老婆や年配の女性の姿は見かけるが女性の数は少ないようだ。

 

 多くの者は、うな垂れている様子だった。

 ミートらは、前方に集まっている比較的元気のある若者達に話を聞いた。

 

「あの砦を、賊どもが占拠してるんだ」

「通行料を払えない者は、通してくれない。通常の関所の三倍四倍の通行料を、だ」

 

 また、彼らの多くは、レクイカらとは違う方角から雨を逃れてきた者達だと言う。

 

「おれ達の国でも、中心部はほとんどが雨にやられましたよ」

 

 ほとんどは同国内の南寄りやレクイカらのいた隣の郡からという者も、幾らかは北から来たという者もいた。

 

「一度、何人かいた国の兵士や、腕に覚えのある旅人らで、賊徒に立ち向かったんです。だけど……返り討ちにされて、そいつらは皆殺されてしまいましたよ!」

 若者は、悔しそうに言う。

 

「それに、ここにいた若い女性らは皆、砦の中に連れ去られてしまいました。俺の彼女も……。悔しいけど、あいつらには勝てない」

 

「何という……このようなときに」

 レクイカは、ミートらからこの話を聞いて、悲嘆した。

 

「そいつらは、雨のことは知っているのでしょうかね」

 ミカーはそう述べ、

「どうやら、話からするとやはり、私達の国一帯は全滅で、雨はこちらの方へ向かってきています。おそらく、ここもじきに」

 つまり、賊徒に雨が来ていると注意を促してみては、と提案した。

 

「そうだな」

 ミートは、同意して言う。

「敵は統率の低い賊徒だとしても、なんでも話によると数は三十とか、五十とか……その、とにかく、相当数いるらしい。無理矢理押し通って少しでも犠牲は出したくないな。うーむ……説得できれば一番いいけれど」

 

 意見を述べるミートにミカーも賛成を述べた上で、

「では、交渉役はミートに任せましょう」

 と付け加えた。

 

「交渉に失敗して囚われても、ミートなら何かされることもないでしょう。この前会った賊の一味らしいあいつら、男は要らんて言ってましたし」

「おい。そんなの、何かされる前に、下手すりゃ殺されるかもしれないだろう」

「あるいは、砦の中には、ミートのような男を好む者がいるやも」

「あ、あのなあ……ちょっと怖いことを言うなよ」

「ま、コミュ障騎士に交渉役は無謀ですね。できる交渉もできなくなる」

「いや、自分で言っておいてなあ……」

 

 二人をよそに、レクイカは真面目に考えている。

 

「話が通じる相手であればいいのだけど。説得するとて、相手側の陣中に入り込むのは危険すぎますね。……私が、砦の外から呼びかけてみましょう」

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