未来古事記伝説BUSON

海豹ノファン

戦乱

倭国…昔の日本の国号。


国…昔、国内では都道府県を「国」と区別し、領土を争っていた。栄華を極めた国もあれば飢餓に飢えた国もあり、貧富の差は著しかった。


大陸…昔の中国や朝鮮半島などの陸を憧れの意味もあり倭国人はそう呼んでいた…。


日本に歴史が刻まれるまだ過去の話。


日本はかつて倭国と呼ばれ、大陸からは半ば蔑みと哀れみの眼で見られていた。


その頃は疫病も流行り、土地の奪い合いの争いも起こり、不安定な情勢であった事もあるのかもしれない。


人々はそのような社会に生き、耐え忍んでいたが大陸からやってきた船が倭国に様々な文化を伝えて来た事により、豊かになった。



豊かと言っても倭国の一部分だが。




「オオウスノクニ」もその一つで、大陸の文化を受け入れ大きくなった国家である。



しかし、それを奪い、我が物にしようとせんクニもまたあった。


それはオウスの国、オウスの国もオオウスに負けず劣らず大規模な文化を築いていたが、若くしてオウスの国の王となったヤマトタケルはその華奢で少女のような美しい容姿に似合わず猛々しい野心を胸に秘め、オオウスをも治めようとしていたのだ。


王子であり、隊を率いる事になったヤマトタケルは、茂みに隠れ、攻撃の機会を伺った。


やがて、オオウスの警戒が手薄になったのを良い事に、ヤマトタケルは攻撃の合図をした。


兵士達は火の矢をオオウスの国めがけて放つ。


オオウスの大きな町はたちまち火の海の地獄と化し、人々は逃げ惑った。



「おのれオウスの軍め!宣戦布告も無しに攻め込むとは卑怯なり!」


オオウスの軍勢はオウスの不意打ちに戸惑いつつも、武器を取って必死に抵抗した。


しかし、不意打ちによる動揺で攻撃もままならない兵士達はオウスの軍勢に押されてしまう。


そしてタケル率いるオウスの軍は



オオウスの兵士のみならず、女性や老人、子供をも容赦なく巻き込んだ。ヤマトタケル含む部隊は、全身に紅色の水を浴び、手に持っている剣も真っ赤に染まった。


ヤマトタケルは、オウスに戻り、母君にオオウスを奪った事を報告した。


「母上、只今オオウスの国を奪って参りました。オオウスの国は我々オウスの手中に治められます」


「よくやったタケル、部屋に戻り、休むが良い」


きらびやかな衣装を身に包み、冷徹な笑みを我が子に向け、母君は言った。


そしてタケルは部屋に戻り、みずらに結っていた緑色の髪を垂らし、鎧を外し、血や泥や汗で汚れた体を洗い終えると、布団に横になった。


暗闇の中、人影がタケルの前に現れた。


その人影は今は亡きヤマトタケルの姉、ヤマトヒメのものだった。


容姿はヤマトタケルと瓜二つだが、温和な表情で優しそうな雰囲気はタケルとは似ても似つかない。


ヤマトタケルには一人の姉がいた。


とはいっても過去の話だが、その姉はヤマトタケルと違い、争いを好まず、何より平和を望んでいた。


しかし、父を追うようにその姉がいなくなってから、母の人格は変わり、オウスを独裁的軍事国家にしてしまったのだ。


ヤマトタケルも、母のやり方は間違っているとわかっていた。しかし、母が国を治めている以上は母の命令は絶対、タケルは母の命ずるがままに各地を襲う選択肢しか他は無かった。


タケルはこうしているうちに、感情も、父や姉に対する思いも消えていった。



……はずだった。


ヤマトタケルは暗闇の中に女性の姿を見た。


ヤマトタケルに似ているが、目は死んでいない、美しい衣装のまた似合う、美少女だった。


「ヤマトヒメ…貴様…」


タケルは彼女に鋭い視線を向け、毒づいた。


「タケル…戦うのをやめて!あなたはそんな事の出来る人じゃなかったはずよ!!」


ヤマトタケルの姉、ヤマトヒメの幻影は懸命に説得した。


「くそ、ヤマトヒメの亡霊め、まだ俺のやり方に介入をするのか!」


ヤマトタケルは刀を抜いた。ヤマトタケルはその刀をヤマトヒメの幻影に向け、降り下ろした。


ヤマトヒメの幻影は姿を消したが、その幻影は、タケルの後ろに再び現れた。


「タケル、争いは悲劇しかもたらさない!母上も!あなたのやり方も 間違っている!それはあなた自身が一番よくわかっているはずよ!」


「畜生!死人が偉そうに説教するな!」


タケルは姉の幻影を次々と斬ったがその幻影は次々と現れる。そしてその幻影に押し潰されそうになる直前に差し掛かる所で、タケルは目を覚ました。



「ハァハァ、畜生…またあの夢か…」


゛みずら゛に結った髪を垂らし、艶のある髪を乱すタケル。



息は乱れ額に汗が滲んでいた。


その時、国民達の間では今、反乱の狼煙をかける準備が行われていた。


これ以上女王と皇子の好きにさせるわけにはいかない。民達の怒りはついに爆発し、武器を構えて屋敷に押し寄せた。


屋敷に沢山の兵隊を構えていたので、止めるのは容易に感じられた。


しかし民達は火の矢を用い、屋敷の所々に火を燃やし兵士達の混乱を誘った。



逃げ惑う女中達、兵や民達の死体が所々で転がっている。


「なんだ!?この騒ぎは!」


屋敷内の騒ぎに気づいたタケルは刀を持って部屋を出た。


屋敷内で戦う民達、タケルは確実に命を狙われている存在、火の矢はタケルに向けて飛んできた。


火の矢を見事刀で弾くタケル。


そして母の身を案じたタケルは火の矢や襲いかかる民を掻い潜りながら母の元へ向かった。


「母上~~!!」


屋敷は既に火の海と化していた。


タケルはそこで母の姿を見た。



母の体は真っ黒となり、無数の矢が周辺に突き刺さっていた。



タケルは母の姿を見て感じたのは怒りでも悲しみでもなく、失望でもなかった。


タケルの心に襲いかかって来るのは死の恐怖だった。


(嫌だ…嫌だ!俺もこんな姿になって死んでしまうのか!?そんなの絶対に嫌だ!!)


タケルは母上の骸(むくろ)から逃げるように半泣きになって走った。


「いたぞ!殺せ!!」


タケルの姿を見た民はタケルに襲いかかった。


火事場の馬鹿力で民を斬りつけひたすら逃げるタケル。


タケルは馬に乗り、火の海となったオウスを遠ざかった。


「逃がすか!!」


民達もタケルを逃がさんと馬に乗ってタケルを追った。


真っ暗で深い森の中、馬を走らせるタケル。タケルは時々後ろを振り向いた。

その時、大きな木の枝がタケルの体に直撃し、タケルはそれに弾き飛ばされた。


そしてタケルの乗っていた馬はそのまま遠くに走り去ってしまった。


場所は代わり、滝が流れる湖の中から、大きな物体がザバーンという音を立てて飛び跳ねた。


その中からは大きな魚を手で掴んだ若者がいた。


ライオンの鬣(たてがみ)を思わせるダークブルーの髪にスリムだが筋肉が引き締まっていて肌も焼けていて健康的な身体つき、太い眉毛に目つきの鋭い青年。



彼の名はスサノオと言う。


「食料は集まったかな?」


スサノオは石の置いてある食料を確かめる。



そのそばには一匹の可愛らしい柴犬が見張りをしていた。


「わん!わん!」


柴犬は早く食べたいと言わんばかりに吠えだした。


「ははは!オツキも早く食べたい気持ちもわかるけどもう少し待ってな!新しい客人もいるわけだし」


スサノオは笑いながらオツキと言う柴犬をたしなめた。



そこから数百メートル離れた庵(いおり)にスサノオの住まいがあり、その中に新しい客人がいた。


長い緑色の髪の毛を伸ばし姫のような美しい顔立ちの少年、しかし身体中傷を負っていて、そのため傷部には包帯が巻かれてある。


その人物はあのオウスの国から逃げ出したタケルと言う少年だった。


タケルは唸りながら表情を歪ませていた。


うなされているらしい。

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