第80話 夜食

ダニールの話では技術的には可能だけど、準備に最低1日はかかるということだった。ロケット発射の準備にしてはかなり早いけど、準備していたからかなあと思って納得した。

準備に関してはダニールに一任することにして、僕らは退出した。


「しかしダン、君は本当に宇宙に行くつもりなのか。」


ダニールの部屋から出て、他に誰もいない休憩室に入るとアレク技官が口を開いた。


「ええまあ、なりゆきみたいなものですが、僕にできるならやってみてもいいかなと。」


「しかし、いや、君がそう言うなら素直に受け入れておくべきなのか。別の世界からやってきて、この世界を救うか。まるでよく出来たお話の救世主みたいだな。」


「まだ成功したわけではないので、気が早いですよ。」



「わたしは反対です。」


さっきから黙っていたアンナさんが意を決したように口を開いた。


「えーと、それは危険だからですか。」


「そうです。それに、もし無事にもどってこれたとしても、7日でダンはいなくなってしまうんですよね。」


「うーん、まあこの話している僕の意識はそうかな。この身体は残るけど。」


そう言って何となく右手を持ち上げてひらひらさせてみる。


「せっかく子供達とも仲良くなったのに…。」


そう言われてしまうとちょっと困るけど、いつまでも転生を伸ばすわけにもいかない。この身体の持ち主の合意が得られるかもわからないし。


「そうだ、ひとつお願いがあるんですが。」


「なんでしょう。」


「僕がいなくなったあとのこの身体と本来の持ち主についてなんですが、アンナさんの所に世話になるわけにはいかないでしょうか。」


「それは…。」


「この身体を借りるときに相手の望みを実現すると約束したんですが、その望みというのが自由というものだったんです。多分もともといた牧場みたいな所があまり好きではなかったんだと思います。なのでアンナさんのところなら、この身体の彼も満足するかと。」


そういえばと思って、アレク技官にも話をする。


「僕のことは一時的に警察で保護することになってたと思うんですが、そのままアンナさんの所にいてもいいようにできないですかね。まあ、アンナさんの了解が得られたらの話ですが。」


「いや、そのくらいは何とかしよう。何しろ世界を救ってもらうんだから。むしろ君を調べたいと言い出す研究者を排除するほうが難しそうだ。」


「そっちのほうもお願いします。」


またあのヒト研究所みたいなところで調べられるのは勘弁して欲しい。その時は僕はいなくなっているとしても、自由という約束に反してしまう。


休憩室に自動販売機があったので、飲み物とスナックで軽い夜食にした。その後、アレク技官の案内で今晩泊まるための宿舎に行った。最初に入った建物とは別の棟だけと、建物同士はデパートとかであるみたいに空中の通路でつながっている。


部屋はベッドと小さな机があるくらいの狭い部屋で、トイレやシャワーは共同のが別の場所にある。

アレク技官は部屋を割り振ると、


「それじゃあ、おやすみ。」


といって自分の部屋に入っていった。


「おやすみなさい。」


僕も部屋に入る。

アンナさんは僕が部屋に入ったときには荷物を持ってドアの前にいた。寝る前にシャワーにでも行くのかなと、特に不思議には思わなかったのだけど…。

寝る前にトイレに行っておくかと思って部屋を出ると、まだアンナさんが廊下にいた。


「どうしたんですか?」


「ここから逃げましょう。」


アンナさんは小声で、しかしはっきりとそう言った。

これはどうしたらいいんだろう。アンナさんとしては善意で言ってるのだろうけど。


「前のときはアンナさんと一緒に逃げて良かったと思ってます。でも今回はここでやることがあるんです。」


「そうですか、わかりました。」


アンナさんは部屋に入っていった。


僕はトイレに行ってから部屋に戻って眠った。



転生四日目はこうして終わった。


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