第23話 イルカみたいな少年

あまりの驚きでシャワーの下で固まってしまった。驚きの度合いでいえば宇宙空間に転生したときよりもこの時の衝撃の方が大きかったくらいだ。あとから客観的に思い返すと泡だらけで股間に手をあてたまま動かないでいたのだから笑ってしまう状況でもあるのだけど、この時は笑うどころではなかった。

しかし衝撃をうけた僕の心に関係なく、まもなく自動で再開したシャワーが泡を流していく。途中からのろのろとだが身体の向きを変えて、全体にお湯がかかるようにした。

そのままカーテンのような仕切りをあけて、湯船につかる。シャワーと同じく少しぬるめだけど気持ちいい。地球では人間だけでなく猿も天然の温泉につかったりもするけど、異世界の別の生命体でもやはりお湯につかる風習があるのは面白いところだ。

股間に目をやるが、やはり無いものは無い。でもカンカが女の子だったはずはない。一時転生している僕は、カンカの記憶にアクセスできるのだから自分が男の子であることは知っている。それに転生後の今朝トイレに行ったときにはたしかに付いていたのを見た。


「そうすると何らかの理由で性転換したとか。いやそれも無いなあ。」


マンガだと不思議な薬で男が女になったりとかあるし、お湯で性転換するなんてのもあったけど現実にはない。魚が環境によってメスからオスになったりすることはあるから、人間とは別の生物である大球人がそうであることも絶対にありえないとは言えないとしても、一日のうちに変わるなんてことは無いはずだ。


「それに、胸も無いし。」


湯船の中で手で胸のあたりを触ってみた。大球人も地球人と同じく哺乳類であるようなので胸は存在するが、男の場合はほぼ平らなのも地球人と一緒だ。違う点としては身体の前後にそれぞれ2つの乳首があることだ。前に2つ、後ろに2つなので合計4つの乳首がついている。男の場合は前後ともに平らで同じような見た目だが、女の場合は膨らみ具合に差が出るのが一般的らしい。大きいほうを正胸と呼んで、赤ちゃんが生まれた時の授乳も正胸で行う。ただ個人差もあり、両方とも大きい人や逆に両方とも小さな人もいる。この辺の知識はさっき読んだ保険体育の教科書からのものだ。

そして今の僕の胸はというと、前とかわらない平らな男の胸だった。もし女の子になっていたのだとしたら、もうちょっとは胸があっていいはずだ。まあ今は初等学校に行くぐらいの子供なわけだから大人の女性みたいに大きくはないとしても、クラスの女子くらいはあってもいい。たとえばライラとか。


「ふあっ。」


急に股間がむずむずして変な声がでてしまった。声は止められたがむずむずはとまらない。だがいきなりでびっくりしなければ、少しくすぐったいくらいの感じで我慢できないほどではない。

そして、にゅるんみたいな感じで股間からそれは出てきた。


「あー、なるほど。イルカと同じなのか。」


今度も驚きはしたが、最初の無かった時よりは落ち着いて対応できた。さっきまでは見当たらなかったオチンチンが、今はしっかりと股間に付いてるのが確認できた。

イルカのペニスが通常は体内に収納されているのは有名なので知ってる人もわりといるだろう。普段は泳ぐのに邪魔にならないように身体の中にもぐった状態で、使うときに出てくる。なのでイルカはぱっと目にはオスだかメスだかわからない。そういえば人間のダイバーに対してもペニスを出して寄ってくるセクハライルカもいたりするという。

大球人のペニスも、イルカと同じように通常は身体のなかに入っていて外からは見えないようになっているということらしい。らしいというのは実際に目にしても、いつものような実はそれは知っていたみたいな記憶が浮かんでくるというのが無かったからだ。

これはカンカの記憶にあまり残っていないということなのだろうけど、自分のチンチンが出たり入ったりするのに特に気にしていないのか。それともあまりに当たり前のことなので、特に言語化して記憶していないということなのかなあ。

地球の小学生でも自分の睾丸が時々は身体の中に入るというのを知らない子もいるかも。あとは皮がむける事とかも年齢によっては知らないこともあるか。



風呂からあがってから自室で教科書を読み返したら、男の子のおちんちんが収納される仕組みとかも書いてあった。さっきはざっくり眺めただけなので見逃してしまったようだ。何事もそうなのだが、具体的に知りたい何かがあるのではなく漠然と見ているだけだと見落とすことも多い。

ベッドに入って寝ようとする頃には、股間はまたぺたんこになっていた。やはりイルカのように、平常時は体内に収まっているものらしい。そうすると学校でトイレに行ったときもこうだったのかも。家と同じ座ってする便座だったから体内に収まった状態でもできるのだけど、その時には気がつかなかったのは今思えば不思議だ。不思議といえば朝に外に出てたのはどうしてなのだろう。朝立ちみたいなものだったのかなあ。そんなことを考えながら、一時転生した大球世界での最初の一日は終了した。



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登場生物まとめ


カンカ:僕の一時転生を受け入れてくれた男の子。

マイマ:カンカの母親。

ダンダ:カンカの父親。

ライラ:カンカの幼馴染。眼鏡っ子。

ミーカ:ライラの家で飼っている犬みたいな動物。

タニタ:カンカの左隣に座ってる女子。無口。

ドンド:カンカの右隣の男子。運動が得意。

レイレ:教師。




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