1.参:館の奥には…

 四人は進む。

 目標地点はこの館の奥にいる「館の主」と呼ばれる化け物。

 六媒師それぞれは地図を持つロングヘアの白髪、濃い赤色の眼の少女、アカリに従って進んでいった。

 彼女は超強力能力者Grade9。人口で作られた龍の爪を使用する格闘家で、六媒師の進化を担当し、称号を持っている。

 彼女は今、能力『地図生成』を用いて地図を生成。それを片手に皆に指示をしていたのであった。


「この辺に新たに三十体の霊反応を確認しました」


 アリナが言った瞬間、皆構える。


「分かった、実物化させろ!」


 レトウスの一声でアリナは『Sierstarue』を唱える。

 三十の魂のようなものが飛び交い、一つの形になっていくところを、四人は沈黙しながら待っていた。

 遂に三十体の霊を実物化させた。

 実物化されたそれは、人間型だった。


「ロウトウ!」


「あい分かった!」


 ロウトウは斬りつける!

 しかし……


炭化物の竜巻Carbide tornado


「ふふふふふ」


 実物化されたそれはその刃をかわし、大きな竜巻を発生させた。

 そしてロウトウはその竜巻に飲み込まれた!


「何!?」


 ロウトウの体は…消え失せた。

 三人の驚愕の声を聞いた三十体の実体は、笑いながら三人を見た。


残酷な紙Grimm blað


 そう小さく三十体の実体が唱えた瞬間数千の紙が現れた。

 レトウスは素早くその技を理解した。

 そして……!


「皆! 避けろ!」


 レトウスがそう叫び、数千の紙は急速に回り始め、皆を襲った。

 予想通り。

 今度はレトウスが微笑む番であった。


悪魔の炎Սատանայի բոցը


 レトウスが持っていた二つの鉄塊を投げた瞬間、レトウスの前方は炎で満たされた。

 伝説の十大魔法の内のどのような生物も燃やし、特にレトウスが使い慣れている技、『悪魔の炎Սատանայի բոցը』。

 三十体の実体はその技を食らった。

 手応えはあった。だが……


「残念残念。この私は『分身Davidi germen』が使えるのだよ」


「化け物が人様の言語を使うのか? 頭が良くなったものだな。化け物も!」


 三十体の実体は喋り、レトウスは微笑みながら威嚇した。

 分身――恐ろしいものである。

 何とアリナの三十の霊で構成されたその実体は、彼女の予想を遙かに上回る強さを持っていたのだった。


「リーダー――勝てますか?」


 アリナが恐る恐る尋ねる。

 彼女は恐怖していた。自らの所為で負けるのではないかと危惧していた。

 しかし冷や汗を流しながらレトウスは叫ぶ。


「仕方ねえ。アリナ、アカリ! 先行ってろ!!」


 レトウスは札を出した。

 札は、光る。


「『召喚Հավաքված』!!」


 唱えると、その札は瞬く間にロウトウへと変化した。


「ふふふふ。絶命しそうじゃったわい」


「何ッ!」


 今度は三十体の実体の方が驚く番だった。

 普通の人間のロウトウがなぜ復活できたか。

 実体には分からなかったのである。

 まあそれはレトウスの能力にあるのだが……。

 レトウスの能力は三つ。十大魔法の使用権限と味方蘇生&召喚。そして合成技。

 その内の味方蘇生&召喚は絶命していたら出来ないが、絶命しない限り札の中で全回復することが出来る。だからレトウスは常に死にそうな味方を札で封印し、助ける役目を持っているのだ。

 つまり誰もが気付かない間にロウトウは助けられていた……ということである。

 そして『召喚Հավաքված』。

 その言葉によって札から味方を解放する事が出来るのであった。

 ついでに封印対象は封印当事者に敵意を持たないという条件があるので、敵には使えないという弱点がある。


「ロウトウ!! 二人を頼む」


「うむ!」


 レトウスの指示により、ロウトウら三人はリーダー、レトウスをその場に残して、先に行った。


「リーダー。頑張ってくださいね」


 アリナのその言葉と、


「一つ言っておく。この化け物は敏捷性が強いだけじゃ。全体攻撃をすれば勝てる」


 ロウトウのアドバイスを残して。


「確かに…… "弱気" のロウトウを一撃で倒すくらいじゃ、俺には敵わないな」


 レトウスは襲いかかる三十体の実体を見た。

 そして……アザリガと同じように不敵な笑みを浮かべた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 ロウトウたちは中に入っていった。


「ここから奥に、五体の物体がいます」


 アリナが奥を見ながら言った。

 アリナは結構な距離でも霊、生命体の気配を感じることができるのだ。


「物体とな?」


「はい」


 "六人目の六媒師"がいれば……。

 三人ともそう思った。

 彼なら、一瞬にして奥までの敵を一掃するのに違いないのだ。

 その時、二つの怪物が現れた。


「ケッケッケッケッケ。我達相手にのんびりとしているって――度胸良いね」


 一体は口調が可笑しいオーガ。

 変な形をしていた。


「っっっっっっっっっっっっっっっっっ」


 もう一体は喋れないらしい大蜘蛛。

 こちらは普通の蜘蛛の形をしている


「気持ち悪いんだよ!」


 アカリが言う。

 そう、アカリは虫が苦手なのだ。


「これぐらいの怪物なら儂だけで大丈夫じゃよ」


 ロウトウが構えた。

 そしてロウトウは炎を纏う。

 無言でも、六媒師は通じている。

 そうだ、ロウトウは自分に任せろと言っている。

 二人はそれを察し、この場を去ろうとした。

 そうはさせまいと大蜘蛛が二人を追う。


「無駄じゃよ」


 そう聞こえるが早いか、ロウトウは一瞬で大蜘蛛の前にワープしたかのようなスピードで立ち、木っ端微塵にした!

 そして彼が纏っていた炎は……赤いオーラへと変わった。


「ロウトウが……おじいちゃんが本気になってる!?」


 アカリがいち早く気付いた。

 そう、彼は本気になったのだ。

 早く……片付けるために。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 アザリガは敵の攻撃を避けながら色々な攻撃をした。


「『Tornadoトルネード』!」


 一般魔法『Tornadoトルネード』や『Fireファイア』、『Flameフレイム』に『Thunderサンダー』。そして『Darknessダークネス』と『Starlightスターライト』――と、試したかった魔法を全て使ってみたのだが。


「ふっ! そろそろ此奴を倒さなきゃならねえな。体力あるって言ってたし……。例の魔法を使おうかねえ」


 そう、アザリガとこの怪物の速さの違いは歴然で、アザリガは暇になっていたのだった。パワー型のこの怪物はすばしっこいアザリガを追うので手一杯らしく、アザリガは当然のように避けるため、最初からそれを見切っていたということが伝わってくる。


「俺様の必殺技を……喰らってみろよ」


 アザリガは遂にやってみたかった必殺技を使ってみることを決めた。


「必殺、『最強N剣Sterkste N swaard』!!」


 そう言いながらアザリガは左手に持つ魔法剣を右に大きく振った!


 ドガーーーーーーーーー


 怪物は怯んだ。


「流石体力高いだけのことはあるね。俺様の斬撃に耐えるとは…。じゃあ次の切り札使うかね!」


 アザリガは再び構える。

 そして……


「『最強の斬撃Sterkste Sny』!!!!」


 今度は蒼い斬撃の残像が怪物を貫いた。


 ドカーーーーーーーーン


 大きな爆音とともに、化け物は消滅した。

 反動の強風が、アザリガの黒髪を煽った。

 怪物は死んだ。

 残ったのはその事実。それを感じると、アザリガはフッと笑い、すぐに皆に追いつくため、先を急いだ。

 アザリガは霊を祓った……いや、倒したのだった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方、アリナ達二人は新たな怪物に会った。

 とても速い、ゾンビのような化け物である。


「ここはあたしがやるんだよ」


 アカリが前に出る。

 アリナは一瞬アカリを心配したが、自分の数十倍強いアカリなら倒せると確信し、先を急ぐことを決意した。

 一刻も早く任務を達成しなければいけないのだ。

 なぜなら……。


「頼みました!」


 アリナはそう言うと先に行く。

 アカリはそれを見ると、前に出た。

 


「食事だ」


 怪物は言った。


「食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だ食事だぁ」


 アカリの背筋が凍った。


(なるほど。ここの館は唯怪物が集まってるだけであって、別に先の奴らが死んだってどうでもいいんだよ。だから今まで戦った敵は大蜘蛛以外、先に行く我々を追わなかった……。こいつもあくまで人間を食べたいだけ、まあ速い奴が人間を食うってイメージと違うけど)


「まあいいんだよ!」


 アカリは飛び上がった。


「私は進化のアカリ。ロウトウおじいちゃんにまだ劣るけど……こいつを倒す実力はあるんだよ!」


 アカリは隠し持っていたクナイと武器の爪を出した。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


 一方、アリナがいく先には、不思議な空間が広がっていた。


「何か……いますね」


 それは空間自体がねじ曲がったような……?

 そうアリナが思った瞬間、アリナの前に妖精のような少女が現れた。


「貴方なの? この館への侵略者は」


 アリナはその言葉で自分の敵だと分かり、後ろに所持していた蒼い数珠のついた、魔法の杖を出した。

 そしてその態度を見て相手も魔法の杖らしきものを出す。


「ならば……私は貴方で遊ばせてもらいますね」


 その妖精らしき少女は言った。


「遊ぶ?」


 そうアリナが訊いた瞬間、アリナが立っていた地面が割れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る