6枚目 想いは交差する

 公園を後にすると、ちらほらと往来へ人の影が出てきていた。

 あと数十分ほどで、通勤通学する学生や社会人たちが増えてくるだろう。

 駅まで向かう道すがら、葵はまだ麗との再会から抜け出せないでいた。


 (一丁前にかわ、ううん……あんな顔しちゃって。でも、あの様子だと記憶はあるってことよね。振り向かれたとき美和って呼ばれたし、きっとあの子は和さまで間違いない……?)


 恐らく麗は葵と出会う以前から、前世の記憶を思い出していたのだろう。

 いつ頃からかは本人に聞かなければわからないが、あの少年は和則だ。葵の本能が、魂がそう告げている。


 (また会えたらいいけど……難しそう)


 部活がある日が多く、来月の大会も近い。部員たちとミーティングをする日も、これから増えてくるだろう。練習も今まで以上に熱が入ることが予想された。

 帰宅できる時間は、早くても十八時前から少し過ぎた頃。

 それに電車と徒歩で家に着く時間を加えると、明るいうちに公園へ行く事は無理に等しかった。


 (まぁ仕方ないわよね。部活は私が選んだんだから)


 こればかりはどうしようもなく、諦めるしかなかった。

 土日でさえ学校へ行って、夕方まで練習を重ねている。これでは大会が終わるまで、あまり時間を取れそうにないだろう。


 断片的な、前世の記憶を思い出してから数週間。大会が無い日の休日でも、昼まで寝てしまう事が多かった。

 それもこれも、夢から覚めたくないからだ。

 葵は、和則と死に別れた先の記憶が無い。

 無意識に記憶へ蓋をしているのかもしれないが、葵にとっていい思い出であろうが、悪いものであろうが受け入れたい──そんな思いからだった。


 「悩んでても駄目よねぇ。切り替えなきゃ」


 人知れず溜息を吐く。

 今日から高校生活での二年目が始まるのだ。くよくよ悩んでいるのも得策ではないし、何より記憶が戻ってからの葵が抱く日常への思いは変わった。


 今までは何ら意識していなかったが、今世での日々を悔いなく謳歌おうかする、というながい目標を持ったのだ。


 「……母さんのためにも頑張らないと」


 遅くまで看護師として、昼夜を問わず働く百合を安心させたい。

 仕事であまり家にいない父の代わりに頑張る千秋へ、もっと素直になりたい。

 そして、人に迷惑を掛けないように日々を生きたい。


 葵が心に留めている「約束事」は沢山ある。そのすべてを守るとは行かなくても、今日この日が平和であるように──そんな願いを込めて、しっかりとアスファルトを踏み締めた。

 まだまだ一日が始まって間もない。

 けれど、何事もなく一日が過ぎ去る事を願うばかりだ。

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