第8話 例の場所にて
チンピラ事件の翌日。四人が、誰に気兼ねするともなく、自分たちの本性をさらけ出せる例の場所で、四人が、二人ずつ
「めい、めーいってば。痛いよう。体中が痛いよう。昨日、あんな女、名前は澄というんだが、をかばったばっかりに、変なチンピラにひどくやられてしまった。自分でもどうしてあんなことをしたのかわからないよ」
「よしよし、秀。だいじょうぶ、だいじょうぶ。痛いの痛いの飛んでいけー。でも、秀、君はすっごくいいことをしたね、えらいえらい。自分の彼女を身を呈して守るなんて、誰にでもできることじゃあないよ」
「違うもーん。あんな女、彼女じゃなんかありませーん。というか、僕には彼女なんかいませーん。僕にはたった一人の恋人がいるだけでーす。その恋人とは、僕が悪者にぎったぎたにされている時に、駆けつけてきてくれた古賀本明君という、ナイスガイでーす」
「そうかい。どうも褒めてくれてありがとう。だけど、彼女でもなんでもない女性を、その身を犠牲にして助けるなんて、ますます素晴らしいよ。秀、そんな君が恋人だなんて、俺はなんという幸せ者なんだろう。いったい、どんな運命のいたずらで、こんなに心ときめくようなことになったんだろう」
「そんなあ、僕の方こそ、こんなに幸せで怖いくらいだよ。わかった、明。僕たちは、新世界のアダムとアダムだったんだ。僕たちの世界に、蛇にそそのかされて、知恵の実を食べるような、イブなんて言うあばずれ女はいなかったんだ。だから、僕たちは、二人だけのエデンの園で、こんなに幸せでいられるんだ」
「そうだよ、秀。ちなみに、僕たちが服を着ているのも、全てイブみたいな最低ビッチが原因なんだ。イブが知恵の実を食してしまったせいで、『あれ、裸でいるって、罪深いことなんじゃない』なんて発想が生まれてしまったんだ。本来ならば、俺と秀は、一糸まとわぬ姿でたわむれあっていたはずなんだよ」
「そうなのかい。でも、明の前で、裸になるなんて、やっぱり恥ずかしいよ。こんな風に恥ずかしくなっちゃうのも、女が原因なんだね」
「そう言うことさ、秀。もちろん、俺は今更、原始に戻って、ストリーキングをやろうなんて、秀に強要はしないよ。やっぱり、こう言うのは段階を踏まなきゃね」
「僕、明が男でよかった。明が女だなんて、考えてもぞっとする」
「俺もだよ。秀が男でいてくれたおかげで、こうして清い男男交際ができるんだから」
秀と明が、そんな男夫婦漫才をやっている隣で、澄と祥子も、似たような女夫婦漫才を披露しあっています。
「ねえ、祥子。わたしったら、汚れてしまったわ。あんな汚らわしい男に、この手で触れてしまったんですもの。こんなわたしに、もうあなたの恋人でいる資格なんてないわ。ねえ、そうでしょう」
「そんなこと言うものじゃあないわ、澄。自分の彼氏を介抱したんじゃない。素敵なことよ」
「違いまーす。あんな男は、彼氏でもなんでもありませーん。他ならぬ、私を一番よく知ってくれている祥子が、そんな世迷いごとを言わないでくださーい。そんな、彼氏でもなんでもない男と体を触れ合っちゃったんでーす。もう、祥子の御尊顔を拝することだって、許されませーん」
「何を言っているのよ、澄。あなたが例えどんなことになろうとも、この千紗川祥子の彼女は、草深澄、あなた一人よ。それに、どんな最低の人間にも、手を差し伸べるなんて、澄の心が綺麗な証拠じゃないあなたは立派な人間よ、澄。そんなあなたを彼女にできたなんて、あたしは三国一の果報者よ」
「ええー、たったの三国だけー。三国って、昔の日本と
「そんなことないよ。ごめんね、澄。あたしの言い方のスケールが少し小さすぎたわ。あたしは、この世界で一番の幸せ者だわ。前世のあたしは、一体どれだけの徳を積んだのかな」「そんなこと言わないでちょうだい、祥子。わたしだって、祥子みたいなこの世に二人としていない素敵な女性と恋人でいられるのよ。わたしこそ、前世でどれだけのことをした、どんな存在なんでしょう。お腹を空かせて、今にも餓死しそうな、お釈迦様とキリスト様の目の前で、焚き火に突っ込んで、自らを食料とした、うさぎさんなのかな」
「澄。キリスト教では自殺を禁じているから、それが善行になるとは限らないのよ。それに、飢え死に寸前の人間に、焼肉なんて食べさせたら、ショック死しちゃうよしちゃうよ。まあ、うさぎは一羽二羽と数えるように、仏教では鳥として扱われるから、肉食禁止の
「わたしの、少々理解をするには教養を必要とするボケに、そこまでインテリジェンスあふれるツッコミを数多く返してくれてありがとう。やっぱり祥子は最高の恋人よ。わたし、祥子が女の子でいてくれて嬉しいわ」
「あたしもよ、澄。澄が女の子でいてくれたからこそ、女同士の、美しい同性交際ができるんだから」
そんな風にのろけあっている四人なのでした。
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