第235話 別れ


 ラインは決意に満ちた目でトーノに言った。


「トーノ。もう一回鍛え直してくれ」

『良いぞ』


 にこやかにトーノは言った。


『だが、その前に………………』


 そう言ってトーノはきょろきょろしだす。

 

『居た居た。ホーリ殿』


 そう言ってラインを連れてホーリの前に行くトーノ。


『ホーリ殿。お願いがござる』

『どうされた?』

『お暇頂きとうございます』

 

 ホーリのあっさりした物言いを聞いて全員がぎょっとする。

 そんなみんなの気持ちを余所に、ホーリは深々と頭を下げて言った。


『この不肖の相棒を鍛え直すためにも一度故郷に戻りたく思います』

『………………よりによって今か?』


 ホーリ自身もそろそろ来るとわかっていた。

 だが、あまりに突然の帰郷に驚きは隠せない。


『こやつが犯したトラブルです。その責任を取る意味でもお暇頂きたく思います』

『勝手な言い分を言う……』


 トーノの言い方に苦笑するホーリ。

 そして、悪戯っぽく笑いながら聞いた。


『次に会うときは?』

『恐らく敵同士ですな』


 さらっととんでもないことを言うトーノ。

 だが、ホーリは笑って言った。


『相変わらず愚直ですなトーノ殿。嘘でもそうなら無いことを祈るぐらい言われては?』

『言いたいのは山々ですが……』


 そう言ってちらりとヨミの方を見る。


『あそこの馬鹿に一言言ってやりたく思いますので』

『ほう?』


 ホーリが面白そうに唸るとトーノが拳を突き出してヨミに向かって言った。


『おいバカ! てめぇの首は俺とラインが取ってやるからな!』

『うるせぇ! 取れるもんなら取ってみろ!』


 そう言って中指を立てるヨミ。

 トーノはそれを聞いて笑った。


『という次第でございます』

『なるほどな』


 そう言ってくすりと笑うホーリ。


『お元気で』

『ホーリ殿も』


 そう言って笑うトーノ。

 トーノは傍まで来ていたタトク上帥にも頭を下げた。


『ありがとうございました。タトク様』

『トーノ殿もお元気で』


 そう言ってにこやかに笑うタトク上帥。


 晶霊たちにとって戦いによる別れはあくまでもその場の別れである。

 また情勢次第では仲間になったりもするし、場合によっては殺し合いをした相手と結婚もする。


 そういう間柄なのだ。


 トーノは爽やかな笑顔を浮かべて伸びをした。


『さて帰るか』


 そう言ってトーノは立ち去った。

 ゆっくりと遠ざかっていくトーノに背中を向けるヨミ。


『カッコつけやがって……』


 そうやってぼやくヨミ。

 すると、トーノが少しだけ振り向いたかと思うと……こっそりと忍び足で戻ってくる。


((((((うん?)))))


 全員が不思議に思う中、ヨミの後ろにそっと近寄って……


 ゲシッ!


 思いっきり頭を殴る。


『いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!』

『あばよ! これで貸し借り無しだからな!』


 ヨミが痛そうにさすっている内にトーノは立ち去った。

 アカシはそれを見てぼやく。


『なんだかんだで二人とも負けず嫌いで子供っぽいし、そっくりよね』

『全くだわ』


 トヨタマも呆れ顔になる。

 あとに残されたヨミは「絶対俺が倒す!」と怒っていたと言う。


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