第228話 七兵碁


 まあ、そんなこんなでひと悶着はあったものの、次の試合へと移る。


「では次の試合を始めさせていただきます。次、ヱキトモ=セーワ、およびツネヒラ=カンムは前へ!」


 ジュニが前に出した軍配に向かって二人が前に出る。

 両者ともまえにゆらりと前に出て……


 ゴン!


 がっつり額同士をぶつける。


「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」


 そのまま微動だにせずに睨み合いを始める。

 刀和がその様子を見て苦笑する。


「あらら……お互いに気合入ってるね……」


 苦笑する刀和を見てオトは感心するようにほぅっとため息を漏らす。


「何だかんだ言っても男の子だよなぁ……」

「??? 何の話?」


 オトの言葉に不思議そうにする刀和。


(あの様子見てビビるのかと思ったけど……)


 全然ビビらずに面白そうに様子をみる刀和。

 しばしの間睨み合いを続ける二人だが、ヱキトモの方から声を上げる。


「若造。やりたい競技は自由に選ばせてやる。好きな競技を選べ」


 一切目をそらさず、瞬きもせずにぼそりと呟くヱキトモ。

 するとチンピラ顔をにやりと笑うノリヒラ。


「じゃあ、兵碁にする」


 それを聞いてカンム側がわぁっと歓声が上がった。

 ツネヒラは続けて嫌味ったらしく言った。


「まさか今更変えるとは言わんよなぁ? 武士に二言は無いよなぁ?」


 それを聞いてオトがこまった顔になる。


「そう言えばヱキトモ様って兵碁は強いのかな?」

「……僕と同じぐらいの力自慢で豪勇とは聞いたけど……」


 頭脳戦の話は一切聞いたことが無いことに気付く二人。

 瞬も困った顔になる。


「……あんまり頭脳戦に強そうには見えないよねぇ……」


 どちらかと言えば筋肉馬鹿に見えるヱキトモである。

 実際、豪放磊落な性格であんまり細かいことにはこだわってはいない。

 ヱキトモは面白く無さそうに鼻を鳴らす。


「……武士に二言はない。だが、このような場ゆえに七兵碁で良いか?」

「良いぜぇ! それぐらいは譲ってやるぜ! 」

 

 ツネヒラも嬉しそうに笑う。

 それを聞いてジュニは困った顔になる。


「それは構いませんが……この戦いは晶霊たちも見ております。小さな駒を使う試合は難しいのでは?」


 兵碁とはこの世界における将棋のようなものだが……当たり前だが晶霊にとっては非常に小さい。

 見た目にもパッとしないし、何が起きてるのかは人間のギャラリーにすらわからない。

 するとツネヒラは笑った。


「人間兵碁にする。それなら文句は無いだろう?」

「は、はぁ……」

「お前らやれ!」

「「「「「へい!」」」」」


 ツネヒラがそう言うとカンム側からわらわらと人が出てきてあっという間に地面に線を引き、7×7のマス目が出来る。

 そして、半紙を用意した者が現れる。


「この半紙に好きな駒の名前を書け! 勿論ルール通りにな!」

「わかっておるわ」


 嫌そうに半紙に駒の名前を書くヱキトモ。

 それを見てきょとんとする刀和。


「兵碁はこの前やってたけど、七兵碁ってなに?」

「七兵碁ってのは48種類ある駒から、小駒から7つ、中駒から4つ、大駒から2つを選んで試合する方式」

「……そしたら選ぶ駒によっては有利不利も生まれるんじゃ……」

「うん。ただ、その駆け引きも醍醐味っていう試合」

「難しいなぁ……」


 兵碁は実際に刀和もやったのだが、駒の種類があまりに多くて難儀した経験がある。

 さらにそこから有利な駒を選ぶとなれば難しさも倍増するだろう。

 

「早く決着付けるときにやるやり方だけど、好事家にとってはたまらないやり方らしいよ」


 オトの言葉に唸る刀和。

 はっきり言ってしまえば自分が戦って勝てるとは思えない。

 まして、筋肉馬鹿のヱキトモが勝てるのだろうかと心配になる。

 現にツネヒラはもう勝った気でいる。


「さあ、決着付けようぜ!済まねえな兄貴! 兄貴の番は無さそうだ!」

「構わないですよ」


 ニヤニヤと笑うトモシゲ。

 一方、仏頂面で半紙を持った兵士に並ぶように伝えているヱキトモ。

 それを見てツネヒラはさらに笑った。


「馬鹿か! 駒の強さも知らねえのかよ! それじゃ小駒ばっかじゃねぇか!」


 ツネヒラの言葉に愕然とする刀和。

 ヱキトモが配置したのは小魚と呼ばれる小駒ばかりで、言うなれば歩と香車と桂馬だけのような駒ばかりである。

 それを見て刀和が不思議そうにする。


「ああいうのは良いの?」

「一応、一つ上の駒を減らして増やすのは良いよ? 逆はダメだけど」

「なるほど……じゃあ、小駒だけで陣を敷くのは良いんだ?」

「そうだけど…………あれだと不利になるだけなんじゃないかな?」


 オトはヱキトモの布陣を見て不思議がる。

 一報、ヱキトモはむすっとして声を上げる。


「わしから指してよいか?」

「良いぜぇ! 好きにしな!」


 ツネヒラが嬉しそうに笑うが、ヱキトモはむすっと言った。


「三六兵」

「これまたバカの名人真似みたいな指し方をしやがる!」


 せせら笑いながら指すツネヒラ。

 それを見て不安そうに呟く瞬。


「大丈夫かなぁ……」


 瞬がそう言うと隣に居たドーフが言った。


「めんどくさいからわざと負けるのかもしれんぞ? そもそもラインが勝手に売った喧嘩だからな」


 そう言って笑うドーフを不安そうに見つめる瞬だった。



用語説明


七兵碁


将棋ってやっぱり戦うのが長いと思うのでこれぐらいにすると早く終わって良いと思う。

AIが発達したことにより、将棋やチェスなどの『最善手』が解明されてしまい、『競技が終わる』ことも多々あると聞いた際にこうすればまだ続くんじゃねぇ?と考えて考案したやり方。

将棋は百種類以上の駒があり、使う駒を選ぶやり方にするとさらに面白くなると思う。



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