第217話 挑発
一方、人間たちの宴の方で事件が起きた。
「お前……もっぺん言ってみろ?」
ラインが一人の男を喧嘩腰に睨んでいた。
男は糸目をしており、にこやかな笑顔を浮かべており、一見すると穏やかな話し合いをしているようにしか見えない。
だが、明らかににやけ面をしたその顔は人を明らかに嗤っている。
後ろには秀麗な顔をした美少年とヤクザにしか見えない強面も居る。
ラインは今にも殴りそうな顔で糸目の男を睨み付けていた。
「三摂家の尻舐めて大きくなったカンム家の癖にセーワ家をバカに出来るのかよ!」
物凄く下品に怒鳴るラインだが、糸目の男はしれッと言い返す。
「失礼な。三摂家と共に歩んでいるだけです。尻どころか糞までご馳走しているのがセーワ家でしょう?」
こちらはこちらで言い方が上品なだけだった。
糸目の男はトモシゲで、先ほどの牡蠣みたいな殻をつけた晶霊の相棒である。
彼が今回の軍隊のボスである。
後ろに居るヤクザ顔のチンピラがにやにやと笑う。
「おうおう。下品な言葉遣いじゃのう。お里が知れるってもんだのぅ」
十分お里が知れる言葉遣いで煽ってくるのはツネヒラと言い、先ほどのほら貝晶霊の相棒である。
ラインの顔がさらに怒りで紅潮している。
「ライン……落ち着いて……」
「これが落ち着いていられるかぁ!」
前から刀和が押さえているのだが、それを振り切って怒鳴るライン。
「あの野郎!セーワ家をバカにしやがって!」
ラインが本気で怒っていた。
「もっぺん言ってみろ!」
「何度でも言いますよ。セーワ家の幹部にはミツヨリが居るのでたかがしれています」
「なんだと……この野郎!」
それを聞いてさらにまなじりを上げて怒るライン。
すると、そんなラインの襟首をむんずと掴む毛むくじゃらの手が現れる。
「その程度の挑発に乗るな」
「うるせぇ! オジキは平気なのかよ!」
「こんな見え見えの安っぽい挑発に乗るほど阿呆では無いわ!」
そう言って止めながらもしれっとバカにし返すヱキトモ。
するとツネヒラが上目遣いで睨み付けてくる。
「おうおう。安っぽい挑発とは言うてくれますのぅ……」
「鮫の威を借るコバンザメにはイワシも倒せん。悔しかったら自分で餌取れるようになったらどうだ?」
がっつり挑発し返すヱキトモ。
そこで、ツネヒラもピキリと青筋を立てる。
「ほう……コバンザメかどうか試して見せましょか? ウミウシ以下のセーワ家さんよ?」
「わしらがウミウシ以下なら貴様らはオキアミ以下だろう?」
そう言ってツネヒラと睨み合いを始めるヱキトモ。
「二人とも落ち着いてください! 今日は宴ですよ!」
慌てて止めに入る美少年シャナオ。
すると、カンム家側に居た綺麗な顔立ちの少年がそんなシャナオの手に自分の手を添える。
「そうですとも。まずは手始めに僕らが仲良くしませんか?」
「え? えーと…………あなたは?」
「コレアツと申します。コレンと呼んでいただけませんか?」
「えっ……うっ……?」
手が添えられた瞬間、猛烈な寒気を感じて鳥肌を立たせるシャナオ。
「まずは仲良くなることが大事です。スード(衆道)でお互いをわかり合いませんか?」
「ひぃぃぃぃぃ!!!!」
恐怖のあまりに瞬時に後ずさるシャナオ。
どうやらそっち系の人間らしい。
ちなみに、スードのたしなみはあくまで都の中だけなので地方はやってない。
セーワ家とカンム家が完全に険悪になっていると、声が聞こえてきた。
「お前達。何をやっている?」
ツツカワ親王が眉を顰めながら泳いでやってくる。
ふわりと側に降り立つとセーワ家の全員が慌てて頭を下げる。
ちなみにカンム家の連中は黙って下がるだけだった。
「諍いを起こすために宴をやっている訳では無いのだぞ?」
「こいつらがワリィんだよ!」
そう言って指さすラインだが、すぐにヱキトモに手を押さえられる。
「西海太宰は部下にどんな教育をしてるのですか? 貴人に対する例ではありませんよ?」
平然と言うトモシゲの様子にさらに眉を顰めるツツカワ親王。
自分が礼儀に反する奴に限って礼儀にうるさい。
「これは落とし前つけてもらわなあかんなぁ……」
トモシゲの横でさらに脅しを始めるノリヒラ。
(こ、こいつら……)
あまりの態度にイラつきを覚えるツツカワ。
彼自身も殴りたくなる衝動に駆られる。
「さあさあ! どうされるんですかい!?」
さらに前に出るツネヒラの前に1人の男が前に出る。
「何をやっている?」
南海太宰 ウス上皇が冷静な顔で現れた。
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