第183話 エピローグ


 何もない白い空間の中で運命神トリニアは寝そべりながらテレビを見ている。

 テレビの中ではモチナガがカギリの言葉を真剣に耳を傾けている様子が出ている。

 それを見てトリニアは渋面になる。


「……こういう方法を使ったか……」


 トリニアには何が起きているかはわかっていた。

 運命神は全ての事象をきちんと正確に観察できる。

 もっとも、だからと言ってそれを当事者に話すことは無いのだが。


「こいつは厄介だねぇ……」


 流石に冷や汗を出したトリニアだが、そんなトリニアの後ろの空間が歪む。


「どうよ?私の戦略は?」


 自信満々の小憎らしい顔を見せるメルンであった。

 トリニアは寝そべったままメルンの方を見る。


「珍しいのね。前じゃなくて後ろから現れるなんて」

「あんたがそれを見て悔しがる様子を見たかったからよ」


 そう言ってテレビを指さすメルン。


「私の手駒は優秀でしょう? 失敗はキチンと学習するのよ?」

「学習した割にはやることがあんまり変わらないわね」


 そう言ってモチナガが嬉しそうにビルニで色々やっているのを指さすトリニア。


「結局は力押しじゃない。こいつを持ち出すなんて……」

「こっちは負けっぱなしなんだから手を選んでいる暇は無いのよ」


 言葉の割には強気のメルン。


「少なくともこの世界ではあのビルニに立ち向かう方法は無いわ。それこそ、『彼』が地球とコンタクトを取らないと無理ね」

「……確かにこの世界では立ち向かう方法は無いね」


 くすりと笑うトリニア。

 するとメルンは訝し気な顔をする。


「ひょっとしてあの九頭竜ってのがあんたの切り札の一つってわけ? 残念ね。あいつらは魔界から来ている。ビルニに対抗する技術があると思えないし……」


 そう言ってビルニを指さすメルン。


「こいつを作るには『生命』の魔人が居ないと無理よ」

「そうだねぇ」


 さらにくすりと笑うトリニア。


「小銃は魔界にも月海にも無いからねぇ……」

「何よぉ……」


 余裕の表情のトリニアにメルンは仏頂面になる。


「なんだかこの状況を読んでるみたいじゃない……」

「読んでるとしたら?」


 余裕の表情のトリニアにメルンは悔しそうに叫ぶ。


「読んでたとしても絶対無理だし!『設計図』を知らないと小銃なんて絶対作れないもん! 仮にあったとしても作るのに試行錯誤無しじゃ無理だし! 今からじゃ絶対間に合わない!」

「確かにそうだねぇ」


 ニヤニヤ笑うトリニア。

 やがて、メルンは悔しそうに叫んだ。


「よ、読んでたとしても絶対に勝ってやるんだから!」

「がんばってねー」


 ヒュルン


 メルンが完全に消えてしまう。

 メルンが消えた空間に向けてトリニアは笑って言った。


……」


 そう言って指でっぽうを作ってバンっと小声で言った。


ビュオン


 すると目の前に設計図が広がった。

 それは小銃の設計図だった。


「地球上でもっとも人を殺した兵器か……」


 小銃とは早い話が戦場で兵隊さんが持っているあの銃のことで、一発ずつ撃つのも一度に何発もばら撒くのも自由自在の汎用兵器である。

 それ故に最も多くの命を奪う武器にもなる。


「AK47『カラシニコフ』……」


 その中でも特に多くの命を奪ったのはこの小銃である。

 もっとも、この小銃が多くの命を奪った理由は『優れている』からではない。


「『もっとも作りやすく、壊れにくい小銃』か……」


 

 そして作りやすい故に直しやすく、数も多いのでダメになってもすぐに対応できる。

 戦場で使うためにあるような小銃なのだ。


 精度などでは最新の銃に負けるし、作られた当時としてもそれほど高くは無かった。

 だが、『どんなところでも作れる』と言うのは非常に大きかった。


「当時のアメリカは世界最大の工業国であったが、それでも世界全ての工業力を越えることは無かった」


 どんなに優れていても、一人の力や一国の力はたかが知れている。

 世界中のどの国でも作れる小銃というのは便利すぎた。

 そして世界中で作れるということは

 『ここでしか手に入らない』は『ここでしか扱えない』であり、壊れても対処しにくい。

 だが、この小銃は運用する場所を一切選ばない。

 

 そう、


「名剣は一振りしかない物が多いけど、名銃ってありふれてしまうのがネックよね」


 どんなにカッコいいことを言っても工業製品である以上、「作りやすさ」も重要な課題である。

 ありふれた製品ほど……ありふれた製品を『作らないといけない』のが工業製品でもある。

 何しろ『ありふれた製品』とは『それだけ売れた製品』のことだから。


「『ビルニ』は作れなくても小銃は作れるよ?」


 そう言ってトリニアは笑った。


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